守る組織に守る人、それを生む原因とは?ちきりんの“社会派”で行こう!(1/2 ページ)

» 2012年07月09日 08時00分 公開
[ちきりん,Chikirinの日記]

「ちきりんの“社会派”で行こう!」とは?

はてなダイアリーの片隅でさまざまな話題をちょっと違った視点から扱う匿名ブロガー“ちきりん”さん。政治や経済から、社会、芸能まで鋭い分析眼で読み解く“ちきりんワールド”をご堪能ください。

※本記事は、「Chikirinの日記」において、2010年4月18日に掲載されたエントリーを再構成したコラムです。


 「知っている情報はもったいぶらずに全部、お客さまに渡せ」と、その昔、上司によく言われました。情報だけではなく、考えたこと……知見とか洞察という類のモノ、知的財産的なもの、すべてです。

 これは、価値ある情報を「抱え込むな」「出し惜しみするな」「隠すな」「もったいぶるな」、なぜなら「全部出しきったら、翌日はまた、新たに価値あるものを見つける必要が出てくる。そうしたら、お前はもっと努力するし成長するよ」という意味です。

 何かを残しておけば、「次回までに何も結果がでなければ、コレを出せばいい」と思えます。そしてその考え方が、進化や成長を阻害します。

 例えば、「コストを10%削減しろ」と言われたとします。いろいろ考えてみたら15%のコスト削減が可能だと分かった。そこで10%だけ削減して、「10%削減、達成できました!」と言っておけば、5%の余裕を残しておける。

 そうすればまた次回「さらに10%削減しろ」と言われた時に(というか、必ず言われる)、楽ができます。楽がしたいわけでもなくても、万が一に備えることができて安心できます。でも、このゆとりや余裕が、人間の成長を阻害します。余裕があると、人は真剣勝負をやらなくなるのです。

 「価値あるものを隠し持っていると、人は全速力で走らなくなる。だから全部出せと言ってるんだ」とその上司はよく話していました。

 「優秀な奴なんてなんぼでもいる。ゴロゴロいる。そこらじゅうにいる。差が付くのは、そいつが全力で走っているかどうかだ。『オレはできる』とか『あいつは優秀だ』とか意味がない、これ以上は無理というくらい力を出し切って走っているかどうかがすべてだ」と。

 力の限りを出して走るのは大変なこと。特に能力の高い人にとっては簡単ではありません。なぜなら彼らはそこまでの力を出さなくても、たやすく上位に立てるからです。

 彼らだって、社会人になってすぐのころは必死で走っていたはずです。でも、2年経ち、5年経つと、その中から“左手で仕事をする”人が現れます。右手(利き手)でやらなくてもやっていけると分かるからです。

 そんな人は放っておけばいいのかもしれません。けれども、そういう人が増えると組織はダメになります。せっかく優秀な人を集めても、その組織は何も生み出さなくなってしまいます。なぜなら、もはやその組織では、誰も全力で走っていないからです。

 しかも能力の高い人は左手で仕事をしながらも、さらに少しずつ“余裕部分”を増やし、貯めていきます。そういう過分な余裕を抱えた人が次にとる行動も決まっています。

 彼らはそれを“守ろう”とし始めるのです。守って楽に稼いでいこうとします。「守る組織」のできあがりです。

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