国会事故調が明らかにした日本の危機管理のあり方藤田正美の時事日想(1/2 ページ)

» 2012年06月11日 07時59分 公開
[藤田正美,Business Media 誠]

著者プロフィール:藤田正美

「ニューズウィーク日本版」元編集長。東京大学経済学部卒業後、「週刊東洋経済」の記者・編集者として14年間の経験を積む。1985年に「よりグローバルな視点」を求めて「ニューズウィーク日本版」創刊プロジェクトに参加。1994年〜2000年に同誌編集長、2001年〜2004年3月に同誌編集主幹を勤める。2004年4月からはフリーランスとして、インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテーターとして出演。ブログ「藤田正美の世の中まるごと“Observer”


 6月8日金曜日、国会事故調で東京電力の清水前社長の参考人聴取が行われた。そして翌9日には2回目の論点整理があった。精力的に委員会をこなしてきた国会事故調は、今月末をめどに報告書作りをすることになる。

 この事故調を取材をしてきて気になることがいくつかある。1つは枝野官房長官(当時)だ。東日本大震災の時、菅首相(当時)が自分の知り合いを官邸に呼んで、原発に関して意見を聞いていた。これについて枝野氏は、「総理がセカンドオピニオンをもつことは原則的に悪いことではない」と述べたのである。

 一般的にリーダーたる人間がさまざまな意見を聞くのは悪いことではない。しかし当時は一刻を争う時だ。実際、3月11日は19時過ぎには緊急事態宣言が出されている。12日早朝には立地自治体に避難命令が出た。そんな時にセカンドオピニオンとは、何とも悠長な話ではないか。

 もちろん専門家の意見は重要である。しかしその意見は、首相だけでなく官邸の関係者が共有していなければならない。実際、菅内閣でも内閣参与という形で後に何人もの専門家を集めた。それは理解できるとしても、首相だけがお友達から聞いた話を「こんな話もあるが、東電は承知しているのか」などと聞くことがあってはならないのである。

 考えてもみるがいい。日本の憲法上、首相は自衛隊の最高指揮官である。たまたま軍事に多少の知識のある首相だとして、どこかの国と戦争になった、あるいはなりそうになった時、お友達の軍事専門家に非公式に意見を聞いて、統合幕僚部に“ご下問”するなんていうことがあっていいはずがない。緊急事態の時は、個人的なセカンドオピニオンなど有害無益そのものなのである。

 これは緊急時の情報と意思決定の原則だと思う。時間と情報が限られる中で、ベストと思われる決断をして、それに責任を取る。それがリーダーたる者の責務だ。菅首相は、自分が原発に詳しいことを自負していて、原子力安全・保安院や東電の言うことを信用しなかった。そして枝野官房長官は、総理のこうした行動を、今に至っても評価しているということである。この人たちがもう一度権力の座に就くことがあるのかどうかは分からないが、リーダーとしての心得のないままに、最高権力者になることだけは願い下げである。

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