学校が世界一のデジタル環境になったら中村伊知哉のもういっぺんイってみな!(1/2 ページ)

» 2012年05月29日 08時00分 公開
[中村伊知哉,@IT]

中村伊知哉(なかむら・いちや)氏のプロフィール:

慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授。京都大学経済学部卒業。慶應義塾大学博士(政策・メディア)。デジタル教科書教材協議会副会長、 デジタルサイネージコンソーシアム理事長、NPO法人CANVAS副理事長、融合研究所代表理事などを兼務。内閣官房知的財産戦略本部、総務省、文部科学省、経済産業省などの委員を務める。1984年、ロックバンド「少年ナイフ」のディレクターを経て郵政省入省。通信・放送融合政策、インターネット政策などを担当。1988年MITメディアラボ客員教授。2002年スタンフォード日本センター研究所長を経て現職。

著書に『デジタル教科書革命』(ソフトバンククリエイティブ、共著)、『デジタルサイネージ戦略』(アスキー・メディアワークス、共著)、『デジタルサイネージ革命』(朝日新聞出版、共著)など。

中村伊知哉氏のWebサイト:http://www.ichiya.org/jpn/、Twitterアカウント:@ichiyanakamura


※編集部注:本記事は2012年5月18日に@IT「中村伊知哉のもういっぺんイってみな!」で掲載された記事を転載したものです。

 生徒全員が持つタブレットPCで、「わたしの未来の学校」の絵を描いた。先生はそれを電子黒板に集めてみんなに見せる。そして、平面のデザインを3D(立体)に変換し、実際に設計できそうか、意見を聞く。みんながPCにペンで書き込む。話もする。どんな学校がいいの。だんだん「わたしたちの未来の学校」ができる。でも、正解は1つじゃない。考える。

 授業の模様はアーカイブに蓄積されていて、家からも見られる。家に帰ると、家族が「未来の学校」のアイデアを出す。明日、学校で発表してみようと思う。 地域の人も見る。給食に意見のあるスーパーの経営者や見回りボランティアのおじさんたちが未来の学校を考える授業に来てくれることになった。

 全員の端末がネットでつながっている。今日の社会科のテーマは政府の仕組み。家でサイトを調べて、共有画面にレポート結果を投稿する。学校の授業では、先生がそれをまとめて電子黒板に表示して、みんなで議論する。

イラスト:ピョコタン

 「じゃあ米国はどうなの? 中国はどうなの?」。知らない。分からない。じゃあ外務省の人に聞いてみよう。テレビ会議システムでつないで、教えてもらう。米国や中国にも問いかけてみる。日本語で送れば機械翻訳される。あ、メールが返ってきた。「なぜ?」って思うことはきっと答えてもらえる――。

 そんな近未来はどうだろう。いずれ学校でも家庭でも、情報端末やデジタル教材を使って、これまでにない教育・学習ができるようになるだろう。日本の学校を、世界一のデジタル環境にしてあげたい。

 2010年、教育の情報化がようやく動き始めた。きっかけは2つある。

 まずは、政権交代後、政府が力を入れ始めたことだ。現在、6人に1台程度の情報端末の普及を進め、2020年に1人1台の情報端末とデジタル教科書が使える環境を実現することを政府目標としている。文部科学省と総務省も連携して学校情報化の実験を推し進めている。

 もう1つは、新しいデバイスが一斉に登場してきたことだ。タブレット端末や先生が使う電子黒板など。教育向けのパソコンも続々と市場に投入される見込みだ。デジタル教育で役立ちそうな機器やツールの具体像が見えるようになってきたのだ。

 その背景には、日本の教育への危機意識がある。PISA(OECD生徒の学習到達度調査)2009年度の結果は、数学的リテラシー9位、科学的リテラシー5位。2000年度に数学的リテラシーで1位、科学的リテラシーで2位を誇った日本の成績は戻っていない。

 日本は教育に対する公的支出の対GDP比がOECD諸国で最低レベルであり、子どもたちが学習に使えるコンピュータなどの機材も恵まれていない状況にある。不登校児童も増え続けており、勉強に対する意欲も国際的にみて低い。

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