“激安”に潜む危険性とマスコミの罪相場英雄の時事日想(1/3 ページ)

» 2012年05月10日 08時01分 公開
[相場英雄,Business Media 誠]

相場英雄(あいば・ひでお)氏のプロフィール

1967年新潟県生まれ。1989年時事通信社入社、経済速報メディアの編集に携わったあと、1995年から日銀金融記者クラブで外為、金利、デリバティブ問題などを担当。その後兜記者クラブで外資系金融機関、株式市況を担当。2005年、『デフォルト(債務不履行)』(角川文庫)で第2回ダイヤモンド経済小説大賞を受賞、作家デビュー。2006年末に同社退社、執筆活動に。著書に『偽装通貨』(東京書籍)、『偽計 みちのく麺食い記者・宮沢賢一郎』(双葉社)、『震える牛』(小学館)などのほか、漫画原作『フラグマン』(小学館ビッグコミックオリジナル増刊)連載。ブログ:「相場英雄の酩酊日記」、Twitterアカウント:@aibahideo


 先の連休中にツアーバスによる悲劇が起こったことは記憶に新しい。事故原因や旅行・バス業界に関する詳報は他稿に譲るとして、今回の事故をある切り口から読み解いてみる。

 切り口とは、“激安価格”だ。デフレ経済の長期化とともに、消費者の低価格志向は強まるばかり。筆者は激安に潜むリスクが悲劇を生んだのではないか、とみる。

GW中の悲劇

 4月29日、群馬県の関越自動車道で乗客7人が死亡、38人が負傷するツアーバス事故が起こった。同事故はメディアによって大々的に報道されたことから、詳報を目にした読者も多いはずだ。

 一連の報道の中で筆者が気になったことは、ツアーバスの運賃が年々低下傾向をたどっている、という点だった。

 2000年の規制緩和以降新規参入が急増し、最終的に「価格競争」の消耗戦が繰り返されている、と多くのメディアが伝えた。折しもデフレ経済が長期化し、消費者の財布のひもは固くなるばかり。バスの乗り心地や車内サービスの善し悪しなどではなく、「価格」ばかりが競争の中心になった、という情報にも接した。

 価格競争の激化とともに、サービスを提供する企業が運転手の人件費を圧縮したことが、結果的に重大な事故につながる要因になったのは明らかだ。

 同事故の情報に接した際、真っ先に筆者の頭に浮かんだのが昨年4月の出来事。富山県を中心に展開していた焼肉チェーンでの集団食中毒だ。同チェーンが提供したユッケが原因で、富山、福井、石川、神奈川の4県で5人が死亡、181人が発症する重大事件となった。

 このチェーンで提供されたユッケの価格は280円。焼肉好きであり、かつ食肉業界内部の取材経験を持つ筆者にとっては、絶対にあり得ない激安価格だった。

 バス事故と集団食中毒は直接リンクしないが、企業の安全対策への意識の低さ、また消費者のあくなき低価格志向の強まりが生んだ悲劇だと言えるのではないか。

連休中にツアーバスによる悲劇が起こった(写真と本文は関係ありません)
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