「勝った!」「儲けた!」で得るモノ、失うモノちきりんの“社会派”で行こう!(1/2 ページ)

» 2012年04月23日 08時00分 公開
[ちきりん,Chikirinの日記]

「ちきりんの“社会派”で行こう!」とは?

はてなダイアリーの片隅でさまざまな話題をちょっと違った視点から扱う匿名ブロガー“ちきりん”さん。政治や経済から、社会、芸能まで鋭い分析眼で読み解く“ちきりんワールド”をご堪能ください。

※本記事は、「Chikirinの日記」において、2010年12月14日に掲載されたエントリーを再構成したコラムです。


 飲み会の支払いの際、たまたまAさんに持ち合わせがなく、同僚のBさんから1000円借りました。すぐ返すつもりが、その直後に多忙になり顔を会わせないまま1カ月が過ぎました。期限も決めていないし催促もされなかったので、「忘れてるかな。今ごろ言い出すのもどうかな。たいした額じゃないし」と思っているうちに、そのままになってしまいました。

 ……というような場合、Aさんが得たのは「1000円」、反対にAさんが失ったのが「信用」です。

 ずっと先、Aさんが起業をしました。仲間や出資を募っています。別の飲み会でその話が話題になった時、Bさんはふと昔のことを思い出して言いました。「でもあいつ、ちょっとルーズな面もあるよね」と。責める風でもなく軽い調子のコメントで、実際、Bさん自身、昔のことをそんなに気にしているわけではありません。半分“つぶやき”みたいなものです。

 でも、その場にいた、実は出資を検討していたCさんには、これはちょっとした情報になりました。細かい話はどうでもいいのです。昔からAさんを知っている人に、Aさんが残している印象がどんなものなのか。それが関心を呼びます。出資は融資とは異なり、担保は「お金を出す相手」そのものですから。

 ここでは2人の行動、言動の妥当性について議論したいわけではありません。書きたいのは、「世の中は時にこういう風に動いている」ということです。実際にそういう場面を見ちゃったりすることがあるのです……。

あなたがそれで“得た”ものは?

 DさんとEさんが交渉事をして、Eさんの主張が通ったとしましょう。Eさんは「良かった!」と思うでしょうし、「勝った!」と思うかもしれません。でも反対にDさんは「譲った」と思っているし、「譲らされた」と感じているかもしれません。

 交渉事で自分の主張を通すのは、「借金をする」みたいなものです。あちこちで交渉事に勝っていると、あちこちで「自分に貸しがある」と思う人を増やすことになります。

 反対に、何かの交渉事の際、「ここはオレが一歩引いておくか」とか「今回は助けてやろう」という判断をしたとします。この行為は「貯金をする」のに近い効果があります。これを続けていると、あちこちに「あの人には借りがある」と感じる人が増えるからです。

 交渉事に強い人の中には「自分の強い立場」を利用して、自分の主張を通そうとする人がいます。相手が断れないと分かっていて、交渉をもちかけるような人です。もしも世の中が「その交渉事1回だけ」で終わりなのであれば、そうやって自分の主張を通すのも悪くないかもしれません。

 でも、世の中は続いていきます。立場を考え、譲らざるを得なかった方にどんな感情が残るか、いつまで相手がそのことを覚えているか、と考えれば、立場を振り回すのは基本的に損だと理解できるはずです。

 これは社員と会社の関係でも同じです。会社が「こいつに辞められると困る」と思っているような優秀な社員なら、「この頼みをきいてくれないならボクは辞めますよ」的なことをちらつかせて、自分の待遇や仕事内容について交渉できるかもしれません。

 けれど、そうやって自分の主張が通った時にも、「さて今回の件で、自分が得たものは何で、失ったものは何なのか」と考えてみることが必要でしょう。自分の主張が通ったのは「自分が優秀だから」ではなく、「相手が譲ったから・譲らされたから」です。相手に残った感情や、自分に対する相手のイメージがどう変わったか、考えてみましょう。あなたが失ったものは、決して小さくないのです。

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