アップルが成功したのは「Why?」があったから――元MS中島聡が描く未来社会の姿New Order ポスト・ジョブズ時代の新ルール(1/4 ページ)

» 2012年04月04日 08時01分 公開
[取材・文/瀬戸友子 撮影/竹井俊晴,エンジニアtype]

「New Order−ポスト・ジョブズ時代の新ルール−」とは

『エンジニアtype』が創刊1周年を記念して贈る特別企画。スティーブ・ジョブズが遺したイノベーションを進化させ、新しいスタンダードを生むために乗り越えるべき壁とは何か? 新たな価値創造にのぞむ各界の大物10人が、時代の新ルールのあり方について語る。


 日本発グローバル企業の象徴たるソニーは、なぜアップルになれなかったのか。多数のシリコンバレー発スタートアップ企業から、なぜ第二のFacebookが生まれないのか。

 IT業界の歴史と現在、世界と日本を体感してきた中島聡氏が導くキーワードは「Why?」。「ソーシャル時代だからこそ、個人の純粋な思いが人を動かす」と語る同氏が、我々の目指す未来社会の姿を先読む。

中島聡氏

中島聡(なかじま・さとし)

株式会社UIEジャパンのファウンダー。1960年東京都生まれ。早稲田大学大学院理工学研究科終了後、NTTを経てマイクロソフトの日本法人(現・日本マイクロソフト)へ。1989年、米マイクロソフト本社に移り、Windows95/98、Internet Explorer 3.0/4.0のチーフアーキテクトを務める。2000年に同社を退社後、UIEを設立。現在、同社の経営者兼開発者として「CloudReaders」や「neu.Notes」といったiOSアプリを開発している。シアトル在住。


アップルの成功は、サムソンやトヨタの成功とは異なっている

――グローバル競争の中、多くの日本企業が苦況に立たされています。どこに課題があり、これから何を目指していくべきだと思いますか?

中島 例えば、なぜソニーはアップルになれなかったのか(外部リンク)。いろいろな考察が出ていますが、何かもっと根本的な違いがあるような気がするんです。そもそもアップルという会社は、ものすごく特異な存在ですよね。

 ビジネスの歴史を振り返ると、最初は個人商店から始まりました。石器時代に誰かが弓矢を作り出した。「これは便利だ」ということで広がっていったけれど、たまたまある集団には弓矢を作れる人がいない。そこで、隣の集団の作り手のところに買いに行くようになった。その人にしか作れないから、作れる人から買うわけです。

 それが何千年も続き、やがて大量生産・大量消費の時代に入ります。安く、安定した物作りができるようになり、テレビなどの媒体を使ったマスマーケティングが主流になりました。

 大きな流れでとらえると、ビジネスにはこの2つのフェーズしかありません。

 大量生産・大量消費の第2フェーズに入って最初に伸びたのが米国、次が日本でした。そして今、中国や韓国や台湾が、それを日本よりもさらに大きく、グローバルに展開し始めています。

 ただし、これはフェーズが変わったわけではなく、大量生産の仕組みの中で、良い品質のものを安く提供することに違いはありません。サムスンなどは今その流れの頂点にいて、これからもどんどん伸びていくことでしょう。

 ところが、アップルについては非常に説明しにくいんですね。なぜサムソンが成功しているか、なぜトヨタがGMに勝ったかは、MBAの教科書にいくらでも載っている。でも、アップルが勝っている理由はそれとは明らかに違う。

       1|2|3|4 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.