“やらせライター”に困っている……とあるラーメン店の話相場英雄の時事日想(1/3 ページ)

» 2012年03月22日 17時47分 公開
[相場英雄,Business Media 誠]

相場英雄(あいば・ひでお)氏のプロフィール

1967年新潟県生まれ。1989年時事通信社入社、経済速報メディアの編集に携わったあと、1995年から日銀金融記者クラブで外為、金利、デリバティブ問題などを担当。その後兜記者クラブで外資系金融機関、株式市況を担当。2005年、『デフォルト(債務不履行)』(角川文庫)で第2回ダイヤモンド経済小説大賞を受賞、作家デビュー。2006年末に同社退社、執筆活動に。著書に『偽装通貨』(東京書籍)、『偽計 みちのく麺食い記者・宮沢賢一郎』(双葉社)、『震える牛』(小学館)などのほか、漫画原作『フラグマン』(小学館ビッグコミックオリジナル増刊)連載。ブログ:「相場英雄の酩酊日記」、Twitterアカウント:@aibahideo


 「本業以外の雑務が増えてやりにくい。昔はこんな気を遣う必要なかったのに」――。

 過日、20年来の付き合いとなるラーメン店の店主が筆者にこんな愚痴をこぼした。本業とは、もちろん丹誠込めて作る自信作のラーメンのこと。本業以外とは、頻繁に入る取材依頼やインターネット上の口コミ対策を指す。頑固職人でもある店主の悩みを聞くうち、現代社会の歪んだ一面をみた。

やらせライターの手口

 冒頭に登場したラーメン店は、JR駅の近くにある小さな店だ。戦後まもなく店を興した先代の跡を継ぐ形で、二代目が切り盛りしている。

 本コラムの別稿でも記したが、筆者は他人から好みを押し付けられることも、また、自分の嗜好を強要することも大嫌いなので、この店の名前や味の傾向にも触れない(関連記事)。ただこの店の一番のウリは、長年の修業と自らの研究を重ねた味で、化学調味料や食品添加物を使わない“昔ながらの味”であることを記しておく。

 初代の味を進化させた現店主のもとには、先代からの客のほか、最近のチェーン店化した有名店の味を嫌う客が徐々に増え始め、最近は行列ができることも珍しくない。二代目によれば、こうした傾向が見え始めたときから“本業以外”の雑務が増え始めたのだという。

 1つ目は、ラーメンに関する著述を専門にするライターや媒体の取材依頼が増えたこと。店を大きくすることに興味のない二代目は、ことごとく取材を断わってきたが、「それでもしつこく依頼が入る」と嘆く。

 しつこく、というところにご注目されたし。

 こうした取材陣の中には、「週刊誌や専門媒体向けに確実に掲載させるので、取材料金を払え」とズケズケと口にする輩が存外に多いのだとか。その料金は、5万円から中には10万円程度を提示されることがあるという。もちろん、ラーメン以外の料理にも、この種の“いわくつきライター”が多数存在する。やらせライターと言い換えることもできる。

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