“棚を耕す”書店に行こう! カリスマと呼ばれるのには理由がある相場英雄の時事日想(1/3 ページ)

» 2012年02月23日 08時00分 公開
[相場英雄,Business Media 誠]

相場英雄(あいば・ひでお)氏のプロフィール

1967年新潟県生まれ。1989年時事通信社入社、経済速報メディアの編集に携わったあと、1995年から日銀金融記者クラブで外為、金利、デリバティブ問題などを担当。その後兜記者クラブで外資系金融機関、株式市況を担当。2005年、『デフォルト(債務不履行)』(角川文庫)で第2回ダイヤモンド経済小説大賞を受賞、作家デビュー。2006年末に同社退社、執筆活動に。著書に『偽装通貨』(東京書籍)、『偽計 みちのく麺食い記者・宮沢賢一郎』(双葉社)、『震える牛』(小学館)などのほか、漫画原作『フラグマン』(小学館ビッグコミックオリジナル増刊)連載。ブログ:「相場英雄の酩酊日記」、Twitterアカウント:@aibahideo


 2月初旬、筆者は新刊のプロモーションのため首都圏と東北地方の20店舗以上の書店を3日間かけて回った。書籍販売が低調な昨今だが、訪問させていただいた各書店の店頭は混み合っていた。その理由は、それぞれの店に書店業界で“カリスマ”と称される店員がいるからだ。店ごとに違う売場を構築し、客のニーズに応える姿を見るにつけ、筆者は勝手に“提案型書店”と読んでいる。ワクワクするような書店をのぞいてみよう。

一般的な店とカリスマ書店員の店の違い

 筆者は過去3年間、新刊発売時に出版社の担当編集者、営業担当とともに書店回りのプロモーションを続けてきた。みちのくを舞台にしたミステリーのシリーズを書いていたこともあり、首都圏だけでなく東北全域の書店も回った。昭和時代の演歌歌手のレコード店回りキャンペーンと構図は一緒だ。

 ここ数年、プロモーションを通じて気付いたのは「本が売れない」という半ば定説化してしまった事柄が、こうした書店には一切関係ない、ということ。

 少子高齢化の進行による読書人口の減少、インターネットの普及、全国チェーンの古書専門店の台頭など、本が売れなくなった理由が語られる。筆者のみるところ、出版社が発行冊数を増やし続けた結果、書店がさばき切れない点数が流通している点にある(出版社と問屋=取次、書店の構造問題については別稿にて触れる)。

 筆者の妻の実家も書店を営んでおり、こうした複合的な書店業界の向かい風について頻繁に聞かされている。多くの一般的な書店は、「取次が出版社ごとにセットしたお勧めを棚に並べるだけ」。このため、どの書店に行っても代わり映えしない売場になる→客の足が店から遠のく→本も次第に売れなくなる、という悪循環が存在するのだ。

 話をプロモーションで訪れた書店に戻す。大半の売場で目立つのはPOP(販促ツール)だ。出版社が販促用に提供したもののほかに、書店員が独自に作成したPOPが並ぶ書店が多い。文芸書や新書の棚、あるいはビジネス書ごとにそれぞれの売れ筋、あるいは本の内容を分かりやすく解説している。

 先ほど、新刊の点数が多いということに触れた。もちろん、書店員が新刊全てに目を通しているわけではないが、「睡眠時間を削ってでも数は読むようにしている」(ベテラン店長)向きが多いのだ。

 書店員の仕事は一般の人が考えている以上に重労働だ。大量に配送される書籍や雑誌の仕分け、棚作り、立ちっぱなしの接客、返本の荷造りなど。そうした彼らが睡眠時間を削って見つけた“お勧め本”には、ほとんど外れがないと言っていい。

 文芸やビジネス書の売場で重労働の書店員が手書きで記したPOPが多い店は、出入りする客の数も多い。多数の書店を回って得た筆者の偽りのない感触だ。

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