「あれから1年」を前にこの本を――大メディアが伝えてこなかった話相場英雄の時事日想(1/3 ページ)

» 2012年02月09日 08時00分 公開
[相場英雄,Business Media 誠]

相場英雄(あいば・ひでお)氏のプロフィール

1967年新潟県生まれ。1989年時事通信社入社、経済速報メディアの編集に携わったあと、1995年から日銀金融記者クラブで外為、金利、デリバティブ問題などを担当。その後兜記者クラブで外資系金融機関、株式市況を担当。2005年、『デフォルト(債務不履行)』(角川文庫)で第2回ダイヤモンド経済小説大賞を受賞、作家デビュー。2006年末に同社退社、執筆活動に。著書に『偽装通貨』(東京書籍)、『偽計 みちのく麺食い記者・宮沢賢一郎』(双葉社)、『震える牛』(小学館)などのほか、漫画原作『フラグマン』(小学館ビッグコミックオリジナル増刊)連載。ブログ:「相場英雄の酩酊日記」、Twitterアカウント:@aibahideo


 先月の当欄で、朝日新聞の元石巻支局長、高成田享氏の著作に触れた(関連記事)。定年退職し、フリーになったベテランジャーナリストが「当事者」目線で綴った東日本大震災の記録を多くの人に知ってもらいたかったからだ。

 震災発生からまもなく1年が経過するのを前に、もう1つ、どうしても読者に知らせたい作品がある。それはノンフィクション作家石井光太氏が綴った『遺体 震災、津波の果てに』(新潮社)だ。この作品を通じ、新聞、テレビ、雑誌の多くが直視しなかった震災犠牲者の詳細を知り、被災地で生き残った人々の本当の感情を共有してもらいたいのだ。

書店員のお勧め

 筆者が『遺体』の存在を知ったのは、昨年10月下旬。きっかけは、岩手県盛岡市在住の書店員のTwitter上でのつぶやきだった。

 この書店員が勧める作品に外れがないことを承知していた上に、この書店の支店も震災で大きな痛手を被っていたことを現地に赴いて実感した。加えて、店のスタッフ数人の実家が津波被害の直撃を受けたことも知らされていただけに、「お勧め」の言葉が持つ重みが尋常ではないと判断し、『遺体』を購入した次第。

 さまざまなメディアで書評が載せられているため、詳細には触れないが、『遺体』は岩手県釜石市の遺体安置所の詳細を記したルポだ。

 安置所の運営に参加した民生委員、遺体運搬車両の運転手になった市役所職員、行方不明者捜索に当たった自衛隊員らの目線を通じ、釜石市で起こった惨禍の一端を著者の石井氏は鮮明に切り取った。

 タイトルの通り、震災、特に津波の被害によって亡くなった方々の遺体がこの作品の主軸だ。大手メディアが放送コードやそれぞれの内規によって触れなかった遺体の詳細がこの作品には綴られている。

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