ジョブズの否定した7インチタブレットこそが、クラウドのリモコンになる遠藤諭の「コンテンツ消費とデジタル」論(1/3 ページ)

» 2011年12月08日 16時21分 公開
[遠藤諭,アスキー総合研究所]
アスキー総研

「遠藤諭の『コンテンツ消費とデジタル』論」とは?

 アスキー総合研究所所長の遠藤諭氏が、コンテンツ消費とデジタルについてお届けします。本やディスクなど、中身とパッケージが不可分の時代と異なり、ネット時代にはコンテンツは物理的な重さを持たない「0(ゼロ)グラム」なのです。

 本記事は、アスキー総合研究所の所長コラム「0(ゼロ)グラムへようこそ」に2011年12月5日に掲載されたコラムを、加筆修正したものです。遠藤氏の最新コラムはアスキー総合研究所で読むことができます。


 海外ニュースを見ていると、タブレット端末の画面サイズが継続的な話題になっている。iPad 3と合わせてiPad miniの噂もあって、7.85インチ(あるいは7.35インチ)を採用するとまことしやかに語られている。10月に発売された7インチのAmazonのKindle Fireは出荷好調が伝えられるが、8.9インチ版も準備中だそうだ。

 7インチには、上着のポケットにも入るし、カバンに入れたとしてもさっと片手で出せる気軽さがある。手に持って使う場合は、両手を使うゲームコントローラー的なポジションになるが、それをカバーして余りあるキーボードの使いやすさとなる。これはシステム手帳のような大きさで、画面サイズにおける「7」という数字はマジックナンバーではないかと思う。

HTCやレノボなどの海外勢に加えて、東芝やシャープからも続々登場している7インチのAndroidタブレット。好調が伝えられるAmazonのKindle Fireや、BlackberryのPlayBookも7インチだ

 カーナビで使われてきた液晶パネル、四六判(188ミリ×130ミリ)や新書などの書籍の大きさや、書籍のページにおけるテキスト部分の面積とも関係するかもしれない。日常生活の中での道具として使うのだとすると、画面の外が視野に入ることにも意味がある。ところが、Galaxy Tab 8.9を触ったら、本体が薄く軽いこともあるが、まったく新しい素材に触れたような錯覚におそわれた。“7インチ原理主義”の私も、8.9インチに興味を持ち始めている。

 7インチのタブレットに関しては、故スティーブ・ジョブズ氏の「DOA(Dead on arrival)発言」があまりにも有名だ。2011年10月18日のアップルの決算発表の際の、記者とのやりとりの中で出てきたものだが、それを伝える記事を読み返してみると、いくつかの発見がある。多数登場している7インチに対して、ムチャクチャな言葉を投げつけたかのように見えるが、実はとても理路整然としているのだ。

  • 噂になっている7インチ版のiPadはない
  • スマートフォン用アプリとタブレット用のアプリは別のものだ
  • タブレット用アプリには9.7インチ以上が必要である
  • 7インチはスマートフォンとしては大きすぎる

 興味深いのは、ジョブズ氏がCEOを退任したり亡くなった際に言われたことと相容れない発言があることだ。いくつかのメディア(例えばCNNの追悼番組)では、「ジョブズは自分の直感だけで判断する人でユーザー調査など信じていない」と述べていた。ところが、ここでは「これはユーザーテストを繰り返してきた結果」の結論だと強調しているのである。

 それにしても、上のように整理してみると、ジョブズ氏の発言はロジカルシンキングの見本のようではないか。そして、この説明と同じ内容をスマートフォンの画面サイズでも主張したことで、4インチになる「iPhone 5」の出荷が遅れたのだとも噂されている。彼の主張を紙に書いて眺めてほしい。アップルは、7インチを想定したユーザーインタフェースに、彼らとしての解を見出していないだけなのだ。

 3.5インチ以上の画面サイズでは、今のiPhoneアプリの操作性が落ちるのは確かだろう。前のメニューに戻る時に、画面の左上をタッチすることが定着しているからだ。ジョブズは、3.5インチという大きさが、マクドナルドのハンバーガーのバンズ(正確に直径3.5インチで作られていることで有名)と同じく、未来永劫変わらないスマートフォンの画面サイズだと信じていたのかもしれない。

 彼は、iPhoneは3.5インチで決まりで、iPadも9.7インチ以上(これも可能な限り変えないほうがいい)と考えていたのだと思う。画面が固定されていることで、iPhoneやiPadでは、作り手が、アプリやコンテンツが受け手の目にどのように映り、どんな体験を与えるかを完全に決め込むことができる。テレビやPCなど、ほとんどの電子機器と異なり、色まで厳密に決められる(それを利用して、デザイナーが色のよりどころにする大日本インキの色見本アプリまで出ている)。

 紙の場合なら、A4判ならA4判という大きさがあって、その中で表現できる情報量は容易にイメージできる。それを綴じるファイルや、コピー機のような関連製品との整合性も取れる。一度でも紙というメディアで仕事をすると、こうしたことに敏感になってくるが、一般の人はそこまでの認識はないのだが(どれほどの人が、A4判の紙の対角線の長さがB4判の長辺の長さと同じだということを知っているだろうか?)。

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