ドイツのソーラー産業が“苦戦”している松田雅央の時事日想(1/2 ページ)

» 2011年12月06日 07時59分 公開
[松田雅央,Business Media 誠]

著者プロフィール:松田雅央(まつだまさひろ)

ドイツ・カールスルーエ市在住ジャーナリスト。東京都立大学工学研究科大学院修了後、1995年渡独。ドイツ及び欧州の環境活動やまちづくりをテーマに、執筆、講演、研究調査、視察コーディネートを行う。記事連載「EUレポート(日本経済研究所/月報)」、「環境・エネルギー先端レポート(ドイチェ・アセット・マネジメント株式会社/月次ニュースレター)」、著書に「環境先進国ドイツの今」、「ドイツ・人が主役のまちづくり」など。ドイツ・ジャーナリスト協会(DJV)会員。公式サイト:「ドイツ環境情報のページ


 再生可能エネルギー分野で世界のトップを走るドイツ。しかしながらソーラー設備メーカーの収益は急速に悪化しており、倒産の危機にある企業も少なくない。海外製品との価格競争に直面するエコ設備メーカーは生存を賭けた新たな局面を迎えている。

復興の象徴

 旧東ドイツ地域、ザクセン・アンハルト州のビッターフェルト-ボルフェン市は、米国のシリコンバレーになぞらえて「ソーラーバレー」と呼ばれている。Q-Cells、Calyxo、Sovello、CSG Solar AGといったソーラー設備メーカーが立地する欧州最大のソーラークラスターだ。

 1990年の東西ドイツ再統一により、旧東ドイツ地域は計画経済から市場経済への脱皮を迫られた。多数の元国営企業が倒産したため、旧西ドイツ地域への市民の大移動が起こり、すべての地域が極端な人口減少に襲われた。西からの財政支援により交通インフラをはじめとする都市基盤は急速な復興を遂げたものの仕事がなければ人々は定着せず、再統一から20年たった今でも人口流出は続いている。再統一後、ビッターフェルト-ボルフェン市でも化学工場が閉鎖され5万人が一気に職を失った。

 この状況は、労働集約型の産業育成では解決できない。たとえドイツ資本であっても、新規に工場を建設するなら安い労働力を求めて旧東欧諸国、さらにアジアへ行ってしまうからだ。

 東西ドイツ再統一の荒波により旧東ドイツの経済は崩壊してしまったが、旧東ドイツ地域には充実した高等教育システムと質の高い研究機関があり、ハイテク産業に経済発展の活路を見出そうとしている。特に再生可能エネルギー分野への期待は高く、ビッターフェルト-ボルフェン市がその好例である。地域再生のため成長の見込めるソーラー関連企業を積極的に誘致する自治体の戦略は時流と見事にマッチした。

 ソーラーモジュール製造の世界最大手Q-Cellsは1999年、社員19人からスタートし10年後には2800人へと飛躍した花形企業だ。ソーラーバレー全体で、最盛期には約1万人が同産業に従事していた。

 Q-Cellsを筆頭とするソーラーバレーは、旧東ドイツ地域をエコ産業で復興するモデルケースとして政府も支援に力を入れている。経済復興だけでなく、環境汚染からエコ産業へのクリーンな転換も注目を集める要因といえよう。

 旧東ドイツ時代の環境対策はお粗末で、ビッターフェルト-ボルフェン市も化学工場と褐炭を用いた発電所による深刻な環境汚染に苦しんでいた。ビッターフェルト-ボルフェン市ではないが、同様に化学工場が操業していた都市の住民から、化学工場周辺の川の水は「触ると肉が解け落ちるほど汚染されていた」と聞いたことがある。

(出典:Q-Cells)

Q-Cellsの基本データ

売上高(100万ユーロ) 営業利益(100万ユーロ) 従業員数 ソーラーモジュール生産量(メガワット)
2002 17.3 0.9 80 933
2003 48.8 5.3 210 27.7
2004 128.7 19.6 480 75.9
2005 299.4 63.2 770 165.7
2006 539.5 129.4 960 253.1
2007 858.9 197.0 1710 389.2
2008 1251.3 205.1 2570 574.2
2009 790.4 -362.5 2780 551
2010 1354.2 82.3 2380 1014
(出典:Q-Cells事業報告書)
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