日本のアニメ・マンガは普及しているのか――答えはWikipediaで(続)遠藤諭の「コンテンツ消費とデジタル」論(1/4 ページ)

» 2011年11月24日 07時59分 公開
[遠藤諭,アスキー総合研究所]
アスキー総研

「遠藤諭の『コンテンツ消費とデジタル』論」とは?

 アスキー総合研究所所長の遠藤諭氏が、コンテンツ消費とデジタルについてお届けします。本やディスクなど、中身とパッケージが不可分の時代と異なり、ネット時代にはコンテンツは物理的な重さを持たない「0(ゼロ)グラム」なのです。

 本記事は、アスキー総合研究所の所長コラム「0(ゼロ)グラムへようこそ」に2011年11月18日に掲載されたコラムを、加筆修正したものです。遠藤氏の最新コラムはアスキー総合研究所で読むことができます。


 前回、Wikipediaで日本のコンテンツに関して、他言語でページが作られているかどうかを調べているという話を書いた。あるところで、「自社のコンテンツが海外のどこで受けているのか分からない」という相談をされたからだ。私は、そのとき「調べるのはたぶん難しくないですよ」と答えたのだった。

 日本のコンテンツの海外での普及状況については、JETROが世界各地の状況をリポートしていたことがある。特定地域でのフィールド調査やアンケート調査も可能だろう。しかし、全世界をフラットに眺めるには、このテーマならWebを使わない手はないと思うのだ。

 かつては、今回のような話に限らず、なにごとも経験則をノウハウとし、それを理論化して方程式を編み出すことが重要だった。それによって、世の中の全体像を推測することが、すなわちサイエンスでありマーケティングであったと言ってもよい。しかし、いまは世界中の情報のかなりの部分が、ネット上で全件チェック可能である。

 GoogleはWeb上で翻訳機能(Google翻訳)を提供しているが、それはネットから集めた膨大な情報をもとにしていると言われる。いままでの翻訳ソフトは、人工知能的な手法に重きが置かれていたが、ひたすら事例を集めて似た文例を引っ張ってきたほうが精度が上がる。検索窓から「Do you give presents * Christmas?」と入力すれば、「at」を入れた例文が見つかるだろう。

 今回は、Wikipedia日本語版のアニメやマンガ作品の全項目について、Wikipediaで使われている約300言語のページが作られているか否かを集計した結果をお伝えする。

 いくつか注意しなければならないことがあって、1つは、Wikipediaの“日本語版”をもとに作業しているということだ。海外コンテンツで、Wikipediaの日本語版に項目のない作品は拾えていない。もう1つは、アニメやマンガ作品であることを「漫画作品」とか「アニメ映画」といった複数のカテゴリ名から洗い出している点だ。海外作品などで、まれにだが適切なカテゴリになっていないケースも見つかっている。

日本の映画に関しての、Wikipedia他言語ページの開設状況。黒澤作品が上位に入り、アニメやマンガ原作作品が続く。ただし、トップの『七人の侍』でも日本語以外は33言語で、『アバター』の74言語や『ハリー・ポッターと賢者の石』の65言語など、ハリウッド作品には遠く及ばない(クリックして拡大)

 図1は、Wikipediaで「日本の映画」というカテゴリに属する項目を、他言語ページの多い順に並べたものだ。1位は『七人の侍』、2位は『羅生門』と、さすがに世界の黒澤明という結果で、『乱』や『生きる』、『影武者』、『隠し砦の三悪人』も上位に入っている。ほかにも、小津安二郎の『東京物語』などが日本映画を代表してきた作品として入ってくる。

 しかし、これを見ていると、世界の映画産業の中で「日本の映画」というものがいかに限定的かということを知らされる。『愛のコリーダ』、『戦場のメリークリスマス』、『花より男子』と、なるほど海外で受けたコンテンツが並んでいて、『ノルウェイの森』の村上春樹人気も分かるのだが、むしろ全体としてはポップな作品が世界に浸透していることに注目すべきだろう。『NANA』や『めぞん一刻』、『テニスの王子様』は、いずれもマンガが元になっているか、アニメーション作品である。

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