1967年新潟県生まれ。1989年時事通信社入社、経済速報メディアの編集に携わったあと、1995年から日銀金融記者クラブで外為、金利、デリバティブ問題などを担当。その後兜記者クラブで外資系金融機関、株式市況を担当。2005年、『デフォルト(債務不履行)』(角川文庫)で第2回ダイヤモンド経済小説大賞を受賞、作家デビュー。2006年末に同社退社、執筆活動に。著書に『偽装通貨』(東京書籍)、『偽計 みちのく麺食い記者・宮沢賢一郎』(双葉社)、『双子の悪魔 』(幻冬舎文庫)などのほか、漫画原作『フラグマン』(小学館ビッグコミックオリジナル増刊)連載。ブログ:「相場英雄の酩酊日記」、Twitterアカウント:@aibahideo
精密機器大手オリンパスで前社長と現経営陣の対立が先鋭化しているのは多くの読者がご存じの通り。両者の言い分やことの経緯についての詳細は他稿に譲るとして、一連の出来事を報じるメディアの中で、筆者が疑問に感じたことがある。疑問とは、記事の顔である「見出し」だ。
オリンパス関連の話題の前に、ある企業で起こったトラブルについて触れる。数年前、筆者が良く知る非上場企業でスキャンダルが発覚した。
トラブルの根源は、「カネ」。専制的な経営者の下で、この企業のガバナンスは硬直化していた。独裁政権の長期化とともに、カネの管理がズブズブになっていたのだ。誰もこれに異を唱えなかった。要するに、「もの言えば唇寒し」(人の悪口を言えば、後味の悪い思いをするということ)の状態だったわけだ。
ところが、ある年の決算を集計する段階で問題が表面化した。ワンマン経営者の親族が経営する企業に多額のカネが流れていたことが発覚したのだ。折しも業績悪化が顕著になった時期でもあり、長年の圧政の反動もあり、組合がカネの流れを徹底的に追及した。
会社側と組合の経営団交の席上、担当役員は防戦に終始した。その間、苦し紛れに「経理担当重役が社長印を勝手に持ち出した」と言及してしまった。
当然、組合側はこれにかみついた。「即刻刑事告訴すべし」と追及したわけだ。もちろん、経理担当重役が“主犯”ではないことを承知した上でのこと。その後、結局刑事告訴には至らなかったが、ワンマン社長は引退に追い込まれてしまった。
コンプライアンスへのあり方が企業の存続問題に直結する時代だけに、社内で不正が起こればこれを正す動きが出てくるのは当然のこと。
この企業についても、一応、ガバナンスが機能したことになるが、「苦し紛れ」の言い訳が当時の経営側の命取りになったのは間違いない。担当役員といえど、社長印の乱用は立派な犯罪だ。団交に臨む前段階で「刑事告訴する」と前のめりの対応をしなければならなかったわけだ。
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