IT系企業による法律事務所との付き合い方

CGM系ネットサービスから、米国SaaSの国内提供、さらには提携事業を解消して自社開発に移行する場合など、“IT系企業ならでは”のビジネスには、IT系の経験豊富な法律的対応が必須。システム開発の現場でプロジェクトマネージャやSEとして経験を積んだ弁護士による、実際の事例を紹介する。

» 2011年10月24日 10時00分 公開
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システム開発の現場でプロジェクトマネージャやSEとして経験を積んだ弁護士が、ITビジネスにおける弁護士への相談事例を紹介します。紛争解決だけでなく、紛争を事前に回避するためにも、契約書を作成するなど、事前に専門家に相談することが大切です。法律相談、案件依頼、費用見積依頼は、記事下フォームよりお気軽にお問い合わせください。


内田・鮫島法律事務所 弁護士 伊藤 雅浩 筆者 内田・鮫島法律事務所 弁護士 伊藤 雅浩

 内田・鮫島法律事務所(USLF)は、これまで多くのIT系企業に対して法律業務を提供してきました。USLFには、システム開発の現場、ネットサービス開発の現場などで実務経験を積んだ弁護士が複数名所属しています。そんな背景のもと、お客さまとお話をしていると、「そういうことも相談できるんですか」などという声を聞くことがあります。

 そこで、実際にわれわれが相談を受けたケースをアレンジして紹介しつつ、IT系企業による法律事務所の利用場面について説明したいと思います。

ケース1――新規のインターネットサービスを立ち上げる場合

 ベンチャー企業Xは、ユーザーがアップロードするコンテンツ(仮に写真、画像)を素材として、ほかのユーザーが加工・改変し、さらに別のコンテンツをアップロードするサービスを提供しようと企画している。


 このような場合に最初に目がいくのは、著作権をはじめとする権利処理の問題です。サービスのコンセプトやビジネス上想定されるリスクをベースに、ここから生じる法的なリスクを検討する作業が必要になります。利用者や事業者の法的関係が整理されたら、それを利用規約に落とし込み、場合によっては社内の運用ルールやマニュアル類の整備も必要になるでしょう。

ケース2――米国アプリケーションサービスを日本に導入する場合

 ベンチャー企業Yは、米国A社が展開中のアプリケーションサービスを日本語化するなどして、SaaSで展開するべくA社と交渉し基本合意に至った。ただし、まだ日本オリジナル機能の開発費負担、ライセンス帰属や、ベース機能の保守条件などは決まっていない。


 他社の開発したソフトウェア、サービスを改良・発展させて自社ソフトウェア、サービスとして展開するには、権利関係のみならず、トラブル時の保守、責任体制などを決めておく必要があります。相手方が日本企業でない場合には慎重さも要求されますが、他方でサービスの展開にはスピードも重要です。ゼロベースで自社開発する場合と異なり、他社依存が避けられないため、途中でA社からサポートが受けられなくなったり、A社が日本国内の競合にもライセンスしたりするなどのリスクが考えられます。そのためできるだけ契約によってリスクをヘッジしておく必要があります。

ケース3――提携関係を解消し、独自に開発を進める場合

 ソフトウェア開発業Z社は、これまでB社と協力して製品を開発してきたが、いろいろな事情により提携関係を解消し、次期バージョンからは単独で開発を進めようと考えている。しかしZ社内には、B社から受領した資料やB社のエンジニアが書いたコードがたくさんあり、機密保持契約なども締結されている。B社からのクレームを回避して効率的に開発する方法はないだろうか。


 B社としては、自社の成果物やノウハウがZ社に利用されることを阻止しようとすることでしょう。この場合、利用に制限がかかる情報の範囲が問題となります。制限がかかる根拠としては、B社とZ社との間で締結された機密保持契約のほか、特許法、著作権法、不正競争防止法などの知的財産関連法があります。

 単に、「秘密情報は目的外使用できません」「著作物はB社の許諾なくして利用できません」といった一般論だけでは安心して開発を進めることはできません。どのような工程で、どんな情報を利用して開発を進めようとしているのか、万が一、違法の可能性があるときには、それを回避するにはどうすればよいのか、といったことを具体的に検討し、違法・適法の線引きをしていく必要があります。

ケース4――新たなパッケージソフトを開発、販売する場合

 今まで受託開発中心だったP社は、以前のクライアントC社に提供したソフトウェアをベースに改良し、自社製品として販売することとなった。しかし、マーケティング、販売のノウハウが乏しいため、中堅ITベンダ数社に代理店となって販売してもらおうと考えている。


 このケースは、いってみれば「販売代理店契約」「ソフトウェア使用許諾契約」「ソフトウェア保守契約」を一通り用意すれば事足りるといえます。しかし一見単純に思える契約であっても、エンドユーザーに対するP社と代理店の責任範囲など、留意すべき点は多々あります。また、単純にインストール媒体を配布すればよいソフトウェアではなく、業務パッケージのように導入支援作業、アドオン開発作業が不可欠なケースでは、それぞれの作業内容に応じた契約形態を選ばなければなりません。

 ここではIT企業、ITプロジェクト固有の法律問題として、4つのケースを示してみました。紛争解決だけでなく、紛争を事前に回避するためにも、システム開発委託契約書などの契約書を作成したり、交わす際には、事前に専門家に相談することが大切です。法律相談、案件依頼、費用見積依頼は、下記フォームよりお気軽にお問い合わせください。

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