メディアに問題はなかったのか ノーベル賞報道の弊害相場英雄の時事日想(1/3 ページ)

» 2011年10月13日 08時01分 公開
[相場英雄,Business Media 誠]

相場英雄(あいば・ひでお)氏のプロフィール

1967年新潟県生まれ。1989年時事通信社入社、経済速報メディアの編集に携わったあと、1995年から日銀金融記者クラブで外為、金利、デリバティブ問題などを担当。その後兜記者クラブで外資系金融機関、株式市況を担当。2005年、『デフォルト(債務不履行)』(角川文庫)で第2回ダイヤモンド経済小説大賞を受賞、作家デビュー。2006年末に同社退社、執筆活動に。著書に『株価操縦』(ダイヤモンド社)、『偽装通貨』(東京書籍)、『偽計 みちのく麺食い記者・宮沢賢一郎』(双葉社)などのほか、漫画原作『フラグマン』(小学館ビッグコミックオリジナル増刊)連載。ブログ:「相場英雄の酩酊日記」、Twitterアカウント:@aibahideo


 先週来ノーベル賞の各部門賞が発表され、大手メディアのトップ級ニュースとして扱われているのはご存じの通り。ただ、今年は受賞確実と事前に「有力」と報じられた日本人研究者が選ばれず、失望感が広がったのも事実。この「失望」の背後には、過熱するばかりの“先走り報道”がある。こうした報道は候補者の精神的な負担になるほか、さまざまな弊害があるのだ。

地元紙の一報

 10月3日、筆者は資料整理の合間にインターネットの各種ニュースサイトをチェックしていた。すると、同日夜発表予定だったノーベル医学生理学賞に関して、京都大学の山中伸弥教授のiPS細胞(新型万能細胞)研究が受賞の有力だと伝えたスウェーデン紙『ダーゲンス・ニュヘテル』の記事があった。

 共同通信の転電のあと、主要紙や民放テレビが相次いでこの現地紙報道を引用し、大きく取り上げていた。

 同日は、政界で目立ったイベントがなかったほか、事件・事故の類いも少ないタイミングにあった。このため、ノーベル賞関連のスウェーデン紙のニュースの扱いが相対的に大きくなった側面がある。

 もちろん、同教授の研究は内外で評価が極めて高く、医療分野のみならず産業界の注目度もある。同賞受賞が決まれば第一級のニュース素材になることは間違いない。

 ただ「ちょっと待て」というのが筆者のみならず、多くの読者や視聴者が抱いた率直な感想ではなかっただろうか。ノーベル賞は、毎年専門委員が秘密裏に選考協議を進める。筆者の知る限りこの内容が事前に漏れたことはない。

 海外通信社が事前予想しているケースはもちろんある。また、先の山中教授の研究のように海外での注目度も高いとなれば、日本のメディアがその動向を取材するのはごくごく当たり前の行動だといえる。

ノーベルの遺言(Wikipediaより)
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