2011年秋冬モデルに見る、「スマホ時代に最適化」されたauの戦略神尾寿の時事日想・特別編(1/3 ページ)

» 2011年09月29日 07時00分 公開
[神尾寿Business Media 誠]
KDDI代表取締役社長の田中孝司氏

 「スマートフォンへの対応が遅れた」

 今から1年前の2010年9月10日、KDDI新社長への昇格が決まった田中孝司氏は、記者会見においてそう語った(参照記事)。その後12月の社長会見においても、「KDDIは変化に気づくのが少し遅れた。(スマートフォンでは)他社に必ず追いつく」と強調。2011年度に入ってからは新時代に即した戦略と体制を構築してきた。

 そして9月26日、KDDIが2011年秋冬モデルを発表した(参照記事)。かねてからの「スマートフォン重視」の予告通り、今回発表されたラインアップは、全9機種中6機種がスマートフォンの「IS series」。さらに法人向けのタブレット端末と新型のWi-Fiルーターも発表された。

 田中新体制の下、スマートフォン時代に向けて大きくを舵を切り、捲土(けんど)重来の機会をうかがってきたKDDI。わずか1年弱の短い期間であったが、その成果はどこまで現れているのか。2011年秋冬モデルの布陣と戦略を見ながら、それを考えたい。

auの2011年秋冬モデルは、Androidスマートフォンが6機種と、ケータイが3機種、モバイルWi-Fiルーターが1機種、タブレット端末が1機種で全11機種。10月上旬以降、順次販売開始する

モバイルWiMAX活用で、オフロード戦略をリード

 KDDIは今回、ハイエンドモデルに絞った発表を行い、今後の製品・サービス戦略の方向性を明確に指し示した。その中でも象徴的だったのが、「HTC EVO 3D ISW12HT」(台湾HTC製)、「ARROWS Z ISW11F」(富士通東芝モバイルコミュニケーションズ製)など4機種がモバイルWiMAXに対応したことだろう。これらのモデルは、モバイルWiMAXエリアでは高速・大容量なWiMAXインフラを活用し、それ以外の地域では広いエリアをカバーする3Gが利用できる。

 田中社長は就任直後に「マルチデバイス」「マルチネットワーク」「コンテンツのマルチユース」という3M戦略を掲げており、今回のモバイルWiMAX活用は、このマルチネットワーク戦略の一環になる。爆発的に増えるスマートフォンのトラフィック(通信量)をさばくには既存の3Gインフラだけでは限界であり、今後は次世代インフラやWi-Fiスポット、家庭内・オフィス内の固定網+Wi-Fiのインフラを効果的に組み合わせていく必要がある。この「オフロード戦略」こそが、スマートフォン時代に優れたキャリアになれるかどうかの試金石になる。

 この観点で見ると、今のKDDIはかなり有利なポジションにある。

 Wi-Fiスポットの展開・活用こそ、同分野の草分けであるソフトバンクモバイルやNTTドコモに出遅れたが、それでも「au Wi-Fi」のスポットエリアを急ピッチで展開。年内に「10万局のエリアを構築する目処ができている」(田中氏)という。それに加えて、同社の強みになるのが、今回の"モバイルWiMAX対応のスマートフォン"だ。モバイルWiMAXは、現在KDDIグループのUQコミュニケーションズが事業を担当しており、3GやLTEとはまったく別のワイヤレスブロードバンドサービスとしてエリアを拡大中。モバイル環境の性能面ではLTEには及ばないものの、3G/LTEとは別の周波数帯域が割り当てられており、基地局コストが安いなどの理由から、"大量のトラフィックを安いビット単価で流せる"というメリットがある。モバイルWiMAXというと高速データ通信の部分ばかりが注目されがちだが、オフロードという視点では、むしろ「大容量かつ低コスト」の面が重要なのだ。屋外におけるスマートフォンのトラフィックの大半を3G/LTEではなくモバイルWiMAXのインフラに誘導できれば、総合的なインフラの収容力とキャリアの収益力に余裕が生まれ、ユーザー向けには通信料の定額制維持や割安な料金プランの導入もしやすくなる。

 むろん、モバイルWiMAXも万全ではない。エリア面では屋外エリアこそ地方の中小都市部でも十分に使えるレベル(全国政令指定都市の95%をカバー)に達しているが、屋内基地局の整備は遅れている。本来は屋内エリアの対応は、"au Wi-Fiとの連携"になるのだが、実はこのau Wi-Fiも初期のスポットエリア展開は固定網の光ファイバーではなくモバイルWiMAXをバックボーン回線として使用しているものが多い。"屋内トラフィックのオフロード"ではKDDIの状況は不十分であり、モバイルWiMAXの屋内基地局設置のペースを上げるか、固定網と組み合わせたau Wi-Fiの整備を急ぐ必要があるだろう。

 さらにモバイルWiMAXには信頼性の向上という課題もある。UQコミュニケーションズは9月21日に東日本を中心に約20時間にも及ぶ大規模・長時間の通信障害を起こしており、インフラ品質への信頼を大きく損なってしまった(参照記事)。田中社長はこの原因について「台風によって通常の9倍のアクセスが集中した結果、高トラフィック時の輻輳のコントロールにバグがあり、システムダウンしてしまった」と説明。再発防止にも努めると謝罪した。今後モバイルWiMAXがKDDIの競争優位性になることを鑑みれば、少なくとも3G並みの品質・信頼性は欲しいところだ。

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