格付けってナニ? 大手メディアにみる経済報道の地盤沈下相場英雄の時事日想(1/2 ページ)

» 2011年09月22日 19時05分 公開
[相場英雄,Business Media 誠]

相場英雄(あいば・ひでお)氏のプロフィール

1967年新潟県生まれ。1989年時事通信社入社、経済速報メディアの編集に携わったあと、1995年から日銀金融記者クラブで外為、金利、デリバティブ問題などを担当。その後兜記者クラブで外資系金融機関、株式市況を担当。2005年、『デフォルト(債務不履行)』(角川文庫)で第2回ダイヤモンド経済小説大賞を受賞、作家デビュー。2006年末に同社退社、執筆活動に。著書に『株価操縦』(ダイヤモンド社)、『偽装通貨』(東京書籍)、『偽計 みちのく麺食い記者・宮沢賢一郎』(双葉社)などのほか、漫画原作『フラグマン』(小学館ビッグコミックオリジナル増刊)連載。ブログ:「相場英雄の酩酊日記」、Twitterアカウント:@aibahideo


テレビのニュース番組や新聞の経済面で、欧州や米国の財政危機に関する報道が連日扱われているのは多くの読者がご存じの通り。先に当欄でも触れたが、国際金融市場のニュースはどこか遠い存在であり、株式やFX投資を手掛けていない限り、多くの読者には他人事と受け止められるケースが多い(関連記事)。だが、一連の情報を伝える側は“他人事”では済まされない。国際的な金融危機の引き金となった「格付け」を通して、大手メディアの経済報道の最近の傾向を読み解いてみる。

“直前”に問い合わせ多数

 「格付けってなんですか? 簡単に教えてください」――。

 今年7月下旬から8月上旬にかけて、内外の格付け会社のもとに、こんな問い合わせが相次いで寄せられたという。

 問い合わせの主は、複数の大手在京紙、民放テレビの経済担当記者だ。この時期は、米国債の格下げが根強く懸念されていた時期に合致する。大手メディアの担当記者たちの行動は、米国が経験する初めての格下げという事態に備えるものだったことは言うまでもない。

 ただ、ちょっと待ってほしい。経済担当記者ならば、「格付け」は基礎知識として必ずや身に付けていなければならない基本中の基本なのだ。突発的な事件・事故とは違い、知っていて当たり前の事柄と言い換えることもできる。格付け会社の関係者から話を聞いた直後、筆者は空いた口がふさがらなかった。最近の経済ニュースの劣化に憤っていたが、その実状は筆者の想像以上だったからに他ならない。

 最近の大手メディアの動向に触れる前に、簡単に格付けのことを説明しておく。

 国や大手企業は「債券」を発行する。国ならば「国債」であり、企業であれば「社債」だ。いずれも広く投資家から資金を調達する。国ならば公共投資の財源、企業ならば設備投資向けの資金等に充当することが多い。

 この際、国や企業の財務内容、すなわち健康状態を第三者が客観的に判断し、アルファベットや数字の組み合わせでランク付したものがメディアで頻繁に取り上げられる格付けだ。この債券を買っても大丈夫か。満期まで保有しても紙くずになるリスクはないか。それを判断する材料が格付けなのだ。

 今般問題となっている「格下げ」のなにがニュース素材となり得るのか。

 米国債は日本をはじめ、中国など多数の国が投資しているほか、各国の生保や年金基金など機関投資家も運用対象としている。公的、あるいはこれに準じた性格の資金を運用する関係上、当然、低リスクであることが前提条件となる。低リスクすなわち高格付けなのだ。

 格下げに直面すれば、投資家はリスクを嫌い、資金の配分を減らす。民間企業の社債でも理屈は同じだ。格付けが高い企業は、幅広い層の投資家から低利で資金を調達できる。業績不振でこれが下がり続ければ利回りが急上昇する。利回りという“お化粧”を施さねば、誰も見向きもしないからだ。

 銀行や証券会社の場合では、格付けが下がることにより、外為市場や短期金融市場での業者間取引が不可能になる場合さえあるのだ。

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