誰のために報道しているのか 記事をパクる大手メディアよ相場英雄の時事日想(1/3 ページ)

» 2011年08月04日 08時00分 公開
[相場英雄,Business Media 誠]

相場英雄(あいば・ひでお)氏のプロフィール

1967年新潟県生まれ。1989年時事通信社入社、経済速報メディアの編集に携わったあと、1995年から日銀金融記者クラブで外為、金利、デリバティブ問題などを担当。その後兜記者クラブで外資系金融機関、株式市況を担当。2005年、『デフォルト(債務不履行)』(角川文庫)で第2回ダイヤモンド経済小説大賞を受賞、作家デビュー。2006年末に同社退社、執筆活動に。著書に『株価操縦』(ダイヤモンド社)、『偽装通貨』(東京書籍)、『偽計 みちのく麺食い記者・宮沢賢一郎』(双葉社)などのほか、漫画原作『フラグマン』(小学館ビッグコミックオリジナル増刊)連載。ブログ:「相場英雄の酩酊日記」、Twitterアカウント:@aibahideo


 先月中旬、筆者は東北地方の地方紙が発行する東日本大震災に関する写真集や特別刊行された書籍を多数購入した。大津波がもたらした甚大な被害を地元目線で報じた記者たちの壮絶な仕事ぶりに驚嘆する一方、ある点に気付いた。それは、地元紙が伝えた内容を、在京のメディアが数多くなぞっていることだ。なぞるというより、「パクリ」と言い換え可能な記事も少なくない。地元民のためという強い決意を持った地方メディアに対し、在京大手メディアの狡辛(こすから)い姿勢が垣間見えた。

パクリ数膨大

平成の三陸大津波』(岩手日報社)

 先月中旬、筆者は小説の取材のため大震災発生後初めて岩手県沿岸部に足を運んだ。陸前高田市、大船渡市、釜石市、大槌町、山田町、宮古市と沿岸地域を北上した。この間、さまざまな人と接し、震災当日、あるいはその後の避難生活、今後の生活再建などについてつぶさに話を聞いた。

 本稿で彼らの話には触れないが、多くの地元民が筆者に勧めてくれたのが、岩手日報社が発刊した『平成の三陸大津波』という写真集だった。沿岸住民が目にした大津波被害の詳細、そして被災者の様子がつぶさに記されている点が筆者のような外から被災地を見る人間には最適、というのがオススメの主旨だった。沿岸部を回ったあと、盛岡市内の書店で早速同書を購入した。

 同書の表紙は黒い水の塊がクルマを飲み込む宮古市の写真。ページを繰ると、同じように沿岸を襲った津波の写真が続く。いずれも同紙記者が命の危険と引き換えにファインダーにおさめたものばかりだ。写真のほか、それぞれの記者が綴った手記、あるいは震災直後の紙面が追記されている。

 筆者はこうした記事に注目した。なぜなら在京の大手紙や民放が報じた内容が数多く載っていたからだ。当然のことながら、第一報は岩手日報が早い。簡単に言えば、同紙が報じたネタを後に被災地入りした在京の大手メディアがお手軽にパクったのだ。

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