「この先20キロ圏 立ち入り禁止」の看板付近で警察官に止められた。立っていたのは福島県警の警察官だ。
警察官 どちらまで行かれる?
私 牧場まで撮影です。
警察官 撮影? どちらまで?
私 牧場です。
警察官 浪江や小高ですか?
私 そうです。
警察官 一応、報道さんですね。
私 はい。
警察官 プレスの人は、30キロ圏内まで、と聞いたことがあるんです。
私 そうなんですか?
警察官 プレスは危険なところに入っていくので。でも、これまでも入っていましたよね?
私 はい。二回目です。
警察官 ひとつ気をつけてお願いします。ひとつ、短くお願いします。この先は、20キロ圏内に入っていきますので、あまりいいとは言えませんので。
私 他の人も入っていますか?
警察官 ほとんど地元の方です。本当は無用の方は入ってはいけないんで。数値がうちらでも分からないんで。
そんなやりとりがあったが、制止されることはなかった。
牧場に近づいた。敷地内に入って行くと、タンクのところに「決死救命を!」とスプレーで書かれているのが見えた。牧場主の悲鳴が聞こえるようだった。さらに進んで行くと人が見えたため、話しかけた。
ここは「エム牧場浪江農場」だ。最初に話しかけたのは、この牧場長の吉沢正己さん。吉沢さんは社長の村田淳さんも紹介してくれた。この日、この農場には2人のほか、小林昌典さんも作業をしていた。
村田 線量計は?
私 持って来てない。東京でも手に入らないんで。
村田 そうだよな。ここの数値を知りたいんだよな。
村田さんは不安そうに話し始めた。この農場には320頭の牛(黒毛和種と日本短角種)がいる。ここは第一原発から約14キロ圏に入るそうだが、携帯電話の電波が入らないためにiPhoneアプリの『原子力発電所ナビ』が使えず、自分では確認できなかった。
「(牛たちを)見殺しにできないからエサを運んで来て、食いつないでいるしかできない。あと一カ月くらいすると草が生えてくるから、飢え死にするくらいにはならないだろうと」
吉沢さんはこう話す。
「事故の後に、発電機を回したんだ。停電なんですよ、今も。そのため井戸水をくみ上げて、牛舎の水を飲ませて、エサをやっていたんです。その間にも2回、(第一原発の)爆発音が聞こえましたよ。それから、80ミリの双眼鏡で2階から見ると、白い噴煙が上がるのが見えた。本当にびっくり仰天っつうかね」
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