夏野 さて、映画を観れば分かるとおり、だれが一番利益に貢献したのか。実際に開発したザッカーバーグという人は中心にいたかもしれないけど、あのときにエロ兄弟に会っていなければ、Facebookの発想はないんですよ。そういう意味ではやっぱりパクっているよね。
それからエドゥアルド※が最初に1000ドル出していなかったら、マークは金なかったんだから。だから誰が一番貢献したのかというと、必ずしもザッカーバーグ1人ではないよ。
中村 ザッカーバーグは成功したアントレプレナーの1人です。米国には多くの成功したアントレプレナーがいますよね。ビル・ゲイツ、スティーブ・ジョブス、googleのセルゲイ・ブリンやラリー・ペイジ……。ザッカーバーグはどういうタイプに分類されると思いますか。
夏野 少し話がずれるかもしれませんが、この映画を観て、思いを馳せると、日本と米国のベンチャー環境の違いが浮き彫りになる。米国のベンチャーがものすごい勢いで立ち上がる理由は2つ。それは、人材とお金なんですよね。
つまり、モノと良いアイデアを持った人材がいて、バーンと事業を立ち上げようとするときに、かなり早い段階で投資をするファンドが登場する。それと、ショーン※みたいなファンドと創業者をつなげようとする人がいる。ショーン自身はお金をもっていない人ですけど、彼のように“発掘してくること”に長けたヤツらがいっぱいいる。映画ではいきなり50万ドルの投資がありましたけど、こういう風にバンバン資本が入ってくる。
夏野 当然ですが資本を入れる側は経営がきちんとしていてほしいと思っている。そこで、創業者の役割をうまく交代させていく。つまり、創業者が必ずしも良い大企業経営者になれるとは限らないのです。創業に才能があってスタートアップをスムーズにやれて、そのあとも企業をでっかくできるような両方の才能を持っている人もいますが、まあ100人に1人ですよね。
資本が入ることで、プロフェッショナルな経営者も入ってくる。この映画では、最初にエドゥアルドがいて、ショーンが入ってきて、その後にいろいろな人が入ってくる。
これと同じようなことがgoogleにもいえて、ラリーとセルゲイの2人が経営していたら、googleはとっくに潰れていたかもしれない。投資家の紹介で、エリック・シュミットがプロフェッショナルな経営者としてかなり早い段階から参画したことで成功したんです。
このようにベンチャーキャピタルから、お金と人材が供給されるわけです。日本で2000年前半に創業したベンチャー企業の、あるいはこのころに上場した企業の経営者を眺めてみると、ほとんど顔ぶれが変わっていないと思う。
モバイル関係のベンチャー企業の社長は全員しっていますけど、いまの経営環境にふさわしい経営者は1割だけですね。残りの9割は早く交代したほうが、絶対にビジネスは大きくなっていると思っているのですけど、この人たちは創業利益をもっているし、いまでも給料を貰っていて、社員がみんな「社長」なんて呼んでくれるから、変わるはずがない。創業当時に比べていまの方が時価総額が高い会社もない。
米国だったら株主からとっくに交代させられていたり、ハッピーリタイアしていたりしているはずです。だから、この映画は社会システムという視点から見ても、日本と米国の環境の違いをとてもよく表していると思います。
学生2 Facebook以外にも、FriendsterやMySpaceといったSNSがある中で、Facebookがこんなに成功した理由は何でしょうか。どうして5億人ものユーザーを集められたのでしょうか。
夏野 SNSはどれだけ急激にユーザーが増えるかという、「最初が重要」という特性があります。MySpaceは立ち上げは早かったけど、何かを発信したい人が集中して使っていた。ブログの延長線上のようなもので、少数の発信者に対して、Twitterでいうところのフォロワーのような多くの受け手が存在していた。
Facebookのすごいところは、参加者がみんなイコールの関係。友だちの多いやつもいれば、少ないやつもいるけど、自分自身が楽しければいい。これは実際の人間関係と同じですよね。知り合いの数が多いとか少ないとかで、どっちがいいという問題にはならない。
Facebookはハーバード大学の学生用だったということもあって、ユーザー同士がかなり対等な関係からスタートしていて、自分から何かを発信しなくても、とりあえずFacebookに自分のページを開いておけば、何か新しい楽しみ方があるという世界を作ったんです。
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