「前向きに考えようよ」という社長に、注意せよ!吉田典史の時事日想(1/3 ページ)

» 2010年12月24日 08時00分 公開
[吉田典史,Business Media 誠]

著者プロフィール:吉田典史(よしだ・のりふみ)

1967年、岐阜県大垣市生まれ。2005年よりフリー。主に、経営、経済分野で取材・執筆・編集を続ける。雑誌では『人事マネジメント』(ビジネスパブリッシング社)や『週刊ダイヤモンド』(ダイヤモンド社)、インターネットではNBオンライン(日経BP社)やダイヤモンドオンライン(ダイヤモンド社)で執筆中。このほか日本マンパワーや専門学校で文章指導の講師を務める。

著書に『非正社員から正社員になる!』(光文社)、『年収1000万円!稼ぐ「ライター」の仕事術』(同文舘出版)、『あの日、「負け組社員」になった…他人事ではない“会社の落とし穴”の避け方・埋め方・逃れ方』(ダイヤモンド社)、『いますぐ「さすが」と言いなさい!』(ビジネス社)など。ブログ「吉田典史の編集部」、Twitterアカウント:@katigumi


 「前向きに考えようよ。ポジティブシンキングにならないといけない」――。

 私はこの言葉を聞くと、うさんくささを感じる。これは、私の取材で知り得た印象でしかないが、特に社員数が50人に満たない小さな会社の、20〜30代の若い経営者からよく聞く。その大半が創業して10年以内の会社だ。中堅、大企業の経営者からは聞いたことはない。

 例えば、2007年の1月、赤坂にある出版社の経営者を尋ねたときのこと。彼は30代半ばまで主要出版社に編集者として勤務し、独立した。知人の紹介で会ったのだが、著名な経営コンサルタントの代わりに本を書いてほしいという依頼だった。つまり、ゴーストライターである(関連記事)

 仕事を始めるにあたり、お金の話を詰めないといけない。200ページ前後の1冊の本をどのくらいの期間でいくらで書くのかを決めるのは、仕事を請け負うならば当たり前のこと。ところが、彼は冒頭で述べた言葉を繰り返す。「もっと前向きに考えましょうよ。物を作る人がお金のことを思い詰めたら、前に進みませんよ」と。

 その場でははぐらかされたので数日後、メールを使い、詰めようとした。しかし、彼は同じ言葉を繰り返した。私は、それより2年前にもこれと似た経験をした。2005年の12月、飯田橋にある編集プロダクションの30代後半の経営者にも同じようにあいまいにされた。この男性も「ポジティブシンキングでいきましょうよ」とお金の話を詰めなかった。

 出版業界は、お金の支払いにルーズである。こういう具合に、ペテンにかけようとする小さな出版社の経営者は少なからずいる。私がこの20年ほどで記憶のある限りでも、15 人くらいはいる。彼らはお金のことを決めようとすると、「前向きに」という言葉を持ち出すことで論点をそらす。そして、いつまでも決めようとはしない。

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