ドイツ・カールスルーエ市在住ジャーナリスト。東京都立大学工学研究科大学院修了後、1995年渡独。ドイツ及び欧州の環境活動やまちづくりをテーマに、執筆、講演、研究調査、視察コーディネートを行う。記事連載「EUレポート(日本経済研究所/月報)」、「環境・エネルギー先端レポート(ドイチェ・アセット・マネジメント株式会社/月次ニュースレター)」、著書に「環境先進国ドイツの今」、「ドイツ・人が主役のまちづくり」など。ドイツ・ジャーナリスト協会(DJV)会員。公式サイト:「ドイツ環境情報のページ」
このところ、ドイツで移民規制の議論が活発化している。ドイツ統計局の2009年度データによれば「外国人」「ドイツで生まれた外国人」「国籍取得者」「帰還移住者」「それらの子ども」といった、いわゆる“移民の背景を持つ人”の割合は19%に達する。日本ではあまり知られていないことだが、ドイツは国民の5人に1人が移民に由来する移民国家である。
移民規制の議論が活発化する背景を一言で表現すれば、それは増え過ぎた移民と社会との不整合だ。
移民の背景を持つ人の中で最大グループを形成するのがトルコ系移民であり、総人口の3.1%(255万人)を占める。ちなみに日本の外国人割合1.7%と比較すれば、ドイツにおけるトルコ系移民の比重がいかに大きいか想像できると思う。
トルコ本国同様、ドイツに住むトルコ系移民もほとんどがイスラム教を信仰し、宗教・文化・メンタリティーの違いからさまざまな摩擦を生んでいる。決して「移民問題=トルコ系移民問題」ではないが、現実的には問題の大きな部分がそうであり、多くのドイツ人が移民問題の対象としてまずトルコ系移民を連想するはずだ。そういったわけでドイツの移民問題を読み解くには、トルコ系移民をキーワードにするのが手っ取り早い。
トルコ系移民にまつわる話をいくつか紹介しよう。
中小企業で働く筆者の知り合いAさん(女性、30歳代)は最近顔色がさえない。どうやらその原因は新たに配属されたトルコ系男性の部下らしい。彼女によれば、彼はとにかく仕事の覚えが悪い。単なる能力の問題なのかもしれないが、もしかしたら女性が上司であることに対する反発かもしれないという。
Aさんがそう考えるのには理由がある。
トルコ系男性だけでなく、広くイスラム教を信仰する男性にはマッチョなメンタリティーが共通している。日本語でマッチョと言えば筋肉隆々の肉体など身体的特徴を表すが、欧州では主に「男性優位主義」を指して使われる。家族は男が養うものであり、当然、決定権を握る。男性は女性より仕事の能力に優れるから指導的な位置に立つのはもちろん、というわけだ。日本でも昔は男性優位主義が幅を利かせていたが、イスラム社会のそれはさらに強固で徹底している。トルコ本国ならそれでもかまわないのだが、ドイツで働く場合、マッチョを貫こうとすれば悲喜劇を巻き起こすことになる。
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