電気・ガス・水道を賢く供給する、“マルチグリッド”とは松田雅央の時事日想(1/4 ページ)

» 2010年09月21日 11時57分 公開
[松田雅央,Business Media 誠]

著者プロフィール:松田雅央(まつだまさひろ)

ドイツ・カールスルーエ市在住ジャーナリスト。東京都立大学工学研究科大学院修了後、1995年渡独。ドイツ及び欧州の環境活動やまちづくりをテーマに、執筆、講演、研究調査、視察コーディネートを行う。記事連載「EUレポート(日本経済研究所/月報)」、「環境・エネルギー先端レポート(ドイチェ・アセット・マネジメント株式会社/月次ニュースレター)」、著書に「環境先進国ドイツの今」、「ドイツ・人が主役のまちづくり」など。ドイツ・ジャーナリスト協会(DJV)会員。公式サイト:「ドイツ環境情報のページ


 ITや通信技術を駆使した「スマートグリッド」が次世代を担う送電システムとして脚光を浴びている。

 しかしながらスマートにできるのは電力供給だけではない。水道やガスといった生活インフラもより賢く供給するべきだし、それらは有機的にコントロールされなければ期待される効果をあげられないはずだ。筆者はこういった複数の生活インフラを統合的に扱うシステムを「マルチグリッド」と呼んでいる。

 ドイツにおける電力・水道・ガスは地域のエネルギー水道公社が一括供給しており、供給事業者が異なる日本と比べるとマルチグリッド実現へのハードルは格段に低い。今回の時事日想は筆者の住むカールスルーエ市のエネルギー水道公社が取り組むマルチグリッドのパイロットプロジェクトを例に、その現状をレポートする。

ドイツの生活インフラ供給システム

 まず、簡単にドイツの生活インフラ供給システムを説明しよう。

 Business Media 誠でも取り上げたように、ドイツには主に4つの電力供給企業がある(関連記事)。ただしこれらの企業は電力だけでなく都市ガス供給も行っており、いわば巨大なエネルギーコンツェルン(グループ企業)といえる。これらの企業は原子力発電所、火力発電所、水力発電所といった電力の「川上(かわかみ)部分」を所有・管理・運営し、高圧送電網を通して電力を供給している。

 これに対して、市町村単位の電力配電網を持ち消費者に電力を供給しているのは地域のエネルギー水道公社である(関連記事)。エネルギー水道公社は各家庭に電力メーターを取りつけ、定期的に検針して料金を徴収することになる。エネルギー水道公社はガスと水道の供給も行っており、生活インフラの「川下(かわしも)部分」を一手に引き受けているわけだ。昔、自治体には「供給局」という部局があり、それが民営化されたのが現在のエネルギー水道公社である。

 しかしながらエネルギーコンツェルンと各地のエネルギー水道公社の垣根はそれほどはっきりしたものではなく、エネルギーコンツェルンはエネルギー水道公社に資本参加したり、場合によっては子会社化することもできる。エネルギー市場の自由化によりこのような状況が生まれ、日本では考えられない「海外資本によるエネルギーコンツェルンの買収」も可能で、旧東ドイツ地域のエネルギー供給はスウェーデン資本の超巨大エネルギーコンツェルン「ヴァッテンファル社」 が担っている。

 それはさておき、各地のエネルギー水道公社が電気・ガス・水道を一括供給しているというポイントを押さえて読み進んでほしい。

ドイツの4大エネルギー会社(Vettenfall, EON, RWE, EnBW、出典:ドイツ エネルギー・水利連盟)
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