ペトリと聞いて普通の人が思い出すのは、理科の時に実験でつかった「ペトリ皿」であろう。このペトリの由来は、ドイツの細菌学者ユリウス・リヒャルト・ペトリから取ったものだそうである。
だが、カメラ界にもペトリを名乗るメーカーがあった。欧州の格調高いイメージの名前だが、実はかつて日本に存在したカメラメーカーである。元々の名前は栗林写真工業。創業が1919年(大正8年)というから、かなりの老舗である。
社名をペトリカメラ株式会社に変更したのは戦後のことで、輸出時にブランドイメージがいいとして、新約聖書の「聖ペトロ」から取ったものだという。ただし中古屋でもペトリのカメラはよく見かけるが、どうもB級扱いされているような感じがある。
ファンもそこそこ多いのだが、「どうしてもペトリじゃないと」というような熱心さがないというか、「ああペトリねー」的な、あんまり深入りするとめんどくさいことになるよオーラを醸し出している。
実はハーフカメラのラインアップもあるのだが、これが珍品扱いになっていて、そこら辺にごろごろ転がってるようなものでもない。いつかは入手したいと思っている。その前哨戦というわけでもないのだが、先日ジャンクで35ミリフルサイズの良さそうなのがあったので買ってみた。4200円の「Petri 35 F2」である。
後で調べたところ、F2というのはレンズの明るさから来る型番で、初代はPetri 35、そこからF2.8、F3.5ときてF2と改良されてきたようである。発売は1957年というから、53年前のカメラである。それにしてはデザインも洗練されており、なかなか綺麗なカメラである。
レンズにはPetri Orikkor。ペトリ・オリコールと読む。昔はレンズはオリコーでも写りはオリコーじゃないという悪口があったそうで、どんな写りをするのか気になるところだ。銘板にはCOLOR CORRECTED SUPERとあるから、カラーフィルムを意識したレンズなのだろう。
Petri 35 F2は、距離の目盛りがフィート表示になっているので、輸出を意識したカメラなのだろう。レンジファインダーの35ミリシリーズの中でも後期のものだけあって、いろいろと洗練されている。逆に洗練されると現代のカメラのデザインに近づいていくので、変なカメラではなくなっていくところが、好事家としては悩ましいところである。
デザインとして、このカメラのお気に入りポイントは、フィルムの巻き戻しレバーだ。よくあるのは細長いレバーが立ち上がるスタイルだが、このカメラでは半円が裏返って巻き戻しレバーとなる、ちょっと変わったデザインとなっている。蝶番が2つ必要になるわけだが、そのコストを払ってもデザインにこだわったのだろう。
軍艦部の端を凹ませているのは、この部分に指を入れてレバーを起こしやすくするための工夫だと思われる。このデザインを機能として成立させるために、細かいところにも気を配っている様子が分かる。
ペトリのビューファインダー機は、二重像の明かり取り窓にエメラルドグリーンのガラスをはめ込んだものが多く、それが1つの特徴となっている。ただ本機の場合は、窓自体が小さくてこのグリーンが表面からは分からない。ファインダーを覗いてみて、なんとなーく緑っぽい部分が中央部にあるなーという感じである。
さて、入手したPetri 35 F2だが、シャッターなどメカニカル部分は良好、ただフィルム巻き上げレバーの動きが若干渋く、巻き上げ後に指を離すと、ゆっくりレバーが戻っていく。まあ実用上問題ない範囲だが、何とかなるなら何とかしたいところだ。
ジャンクの原因はファインダー。かなり曇っている。湿気によるものなのか、はたまたカビによるものなのかは、開けてみないと分からない。ただ、まったく見えないわけでもないので、そのまま使っても差し支えない範囲ではある。
なかなかの出物だと喜んでいたのだが、後玉をよく見たらここも曇っていた。買うときに後玉の状況をチェックし忘れていたので、ちょっとショックだった。レンズは、前玉の汚れや傷は殆ど写りに影響しないが、後玉の汚れはフォーカスの甘さに繋がるので、これが綺麗にならなかったらちょっと事態は深刻である。
映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。最新著作はITmedia +D LifeStyleでのコラムをまとめた「メディア進化社会」(洋泉社 amazonで購入)。
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