無言の妻におびえる夫――トステム、“機能”を売らない内窓CMの裏側郷好文の“うふふ”マーケティング(1/3 ページ)

» 2010年07月29日 08時00分 公開
[郷好文,Business Media 誠]

著者プロフィール:郷 好文

マーケティング・リサーチ、新規事業の開発、海外駐在を経て、1999年〜2008年までコンサルティングファームにてマネジメント・コンサルタントとして、事業戦略・マーケティング戦略など多数のプロジェクトに参画。2009年9月、株式会社ことばを設立。12月、異能のコンサルティング集団アンサー・コンサルティングLLPの設立とともに参画。コンサルタント・エッセイストの仕事に加えて、クリエイター支援・創作品販売の「utte(うって)」事業、ギャラリー&スペース「アートマルシェ神田」の運営に携わる。著書に『顧客視点の成長シナリオ』(ファーストプレス)など、印刷業界誌『プリバリ[印]』で「マーケティング価値校」を連載中。中小企業診断士。ブログ「cotoba」。Twitterアカウントは@Yoshifumi_Go


 「こうして一緒にリビングにいるだけで、汗ばんでしまうのはなぜだ?」

 窓が結露するように、愛にも結露する場面がある。それは経年変化ゆえか、ウチにたまったカビゆえか、それとも外での熱いお遊びゆえなのか。

トステムの防音・断熱内窓インプラスのCM、「夏の遮熱編」

 不愉快そうな妻におびえる夫を堤真一さんが好演。「最近のオレに問題はないはずだ」「何がもの足りないっていうんだい?」と自問自答する迫真の演技に、世の夫は冷たい汗を流す。妻とテレビを観ていてこのCMが流れると、思わずうつむく夫もいる。誰とは言わない。いや言えない。何が怖いのだろう。おっと天にツバする自問はやめよう(笑)。

 これは住宅設備の総合メーカー、トステムの防音・断熱内窓「インプラス」のCM。8月31日まで放送される、「夏の遮熱編」の一幕だ。トステムはリフォーム市場でヒット中の内窓をけん引するトップシェアブランド。ユーザー認知も採用率もトップ(参照リンク)。その快調のもとになっているのが、ギャラクシー賞(放送界のアカデミー賞)CM部門に入賞した一連のCMなのである。

 2009年11月からの「窓について編」「断熱編」「防音編」で、堤さん演じる夫は口を開かない妻に対話を試みてはひとり言になる。「何が問題?」「オレの何がいけないの?」、遂には「またオレの問題?」とささやかな逆切れ。改めて夏の冷や汗をかきたい読者は、全5作品が収録されるインプラスCMギャラリーへ。

 住宅設備のCMでは、たいてい機能説明が中心になる。だが、インプラスでは冷や汗の夫とひと言も喋らない妻役の粟田麗(あわた・うらら)さんの冷たい熱演のあと、商品名が数秒流れるだけ。

 なぜ、商品名を省いたのか? なぜ、「CMはオモシロい」のに「売り上げにつながらない」というワナにハマらなかったのか? その謎を解くため、トステムの広告戦略をうかがった。

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