会社で働く人間にとって、“責任感”とは何だろうか吉田典史の時事日想(1/3 ページ)

» 2010年07月23日 08時00分 公開
[吉田典史,Business Media 誠]

著者プロフィール:吉田典史(よしだ・のりふみ)

1967年、岐阜県大垣市生まれ。2005年よりフリー。主に、経営、経済分野で取材・執筆・編集を続ける。雑誌では『人事マネジメント』(ビジネスパブリッシング社)や『週刊ダイヤモンド』(ダイヤモンド社)、インターネットではNBオンライン(日経BP社)やダイヤモンドオンライン(ダイヤモンド社)で執筆中。このほか日本マンパワーや専門学校で文章指導の講師を務める。

著書に『非正社員から正社員になる!』(光文社)、『年収1000万円!稼ぐ「ライター」の仕事術』(同文舘出版)、『あの日、「負け組社員」になった…他人事ではない“会社の落とし穴”の避け方・埋め方・逃れ方』(ダイヤモンド社)、『いますぐ「さすが」と言いなさい!』(ビジネス社)など。ブログ「吉田典史の編集部」、Twitterアカウント:@katigumi


 先日、『ロストクライム −閃光−』という映画を見た。1968年、東京・府中で起きた3億円強奪事件を題材にした作品である。当時の3億円の価値は、いまで言えば30億円近いという。これだけの額を奪いながら、犯人は逮捕されなかった。そして時効が成立。映画は、謎に満ちたこの事件を正面から扱っている。

 2時間弱という上映時間が30分に感じるほど、ストーリーに魅力があった。映画館を出て興奮が冷めてくると、私は「日本人の責任感」について考え込んだ。

(出典:映画『ロストクライム −閃光−』公式Webサイト)

 映画は、2人の刑事(俳優の奥田瑛二さんと渡辺大さん)がある殺人事件をきっかけに、3億円事件の背景を調べていくというストーリーである。2人は、この事件の犯人は当時10代後半〜20代前半の男女数人であったと推測する。しかし捜査を進めていく中で、その中には警察庁の高級官僚の娘がいたことを突き止める。そして警察はそれを知られたくないがゆえに、この事件を迷宮入りにしたという結論にたどり着く。

 奥田扮(ふん)する、定年まで数カ月となった滝口刑事の捜査は、執念によるものなのだろう。しかし、これは警察の上層部が了解した正規の捜査ではない。上層部からすると「許しがたい行為」に映ったに違いない。だが、迷宮入りした事件をあきらめないのは、刑事の責任感の表れとも言える。

 2人の捜査が進むと、上層部は真相を知られてはまずいと考え、圧力を加え始める。屈強な刑事ら数人が、渡辺演じる片桐刑事に暴行を加える。さらには、監禁までする。理解に苦しむ行為だが、考え方によっては組織を守ろうとする上層部の責任感の表れと言えなくもない。

 3億円事件の全容を暴こうとする側、それを覆い隠そうとする側、双方ともに自らの信じる責任感に基づき、ぶつかり合う。これは純然たるフィクションだが、これに近いことは企業社会でも起こりうるのではないかと思う。「責任感」という美名のもと、徹底した組織防衛が行われるケースである。

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