アルプスから氷河が消えるかもしれない松田雅央の時事日想(1/3 ページ)

» 2010年06月15日 08時55分 公開
[松田雅央,Business Media 誠]

著者プロフィール:松田雅央(まつだまさひろ)

ドイツ・カールスルーエ市在住ジャーナリスト。東京都立大学工学研究科大学院修了後、1995年渡独。ドイツ及び欧州の環境活動やまちづくりをテーマに、執筆、講演、研究調査、視察コーディネートを行う。記事連載「EUレポート(日本経済研究所/月報)」、「環境・エネルギー先端レポート(ドイチェ・アセット・マネジメント株式会社/月次ニュースレター)」、著書に「環境先進国ドイツの今」、「ドイツ・人が主役のまちづくり」など。ドイツ・ジャーナリスト協会(DJV)会員。公式サイト:「ドイツ環境情報のページ


 地球規模の気候変動がアルプスの氷河にも強い影響を与えている。氷河はここ140年以上縮小を続けており、この状態が続けばアルプスの景観(眺め)、生態系、そして地域住民の生活にも重大な影響をもたらすことになる。

 スイスの山岳観光地として世界的に有名なユングフラウヨッホからもアルプスの氷河を目前にすることができる。訪れた5月下旬、海抜3450メートルのユングフラウヨッホは雪に覆われ真っ白だったが、いつの日かこの景観も失われることになるのだろうか?

 今回と次回の時事日想は、「欧州の屋根」と呼ばれるアルプス、特にユングフラウ地方の氷河を題材として気候変動と温暖化について考えてみたい。

一面の銀世界

 スイス南部に位置するユングフラウ地方には、その名の由来ユングフラウ(4158メートル)、世界のクライマーを魅了して止まないアイガー(3970メートル)、その中間にそびえるメンヒ(4099メートル)といった名峰が並ぶ。

 湖に挟まれた観光地インターラーケンから登山列車に一時間ほど揺られると、まずは山岳観光の町グリンデルヴァルト(1034メートル)に到着する。ここから四方に登山電車とロープウェーが伸び、ウィンタースポーツはもちろん、夏のハイキングやサイクリング、パラグライダー、ヘリコプターによる遊覧飛行などを楽しむことができる。グリンデルヴァルトからアイガー、ユングフラウ、メンヒ登山の基点となるクライネシャイデックへはさらに登山電車で1時間弱の距離。海抜2061メートルのクライネシャイデック駅に降り立つと、灰色の岩肌をむき出しにしたアイガー北壁が手の届きそうな距離に見える。

 しかし氷河はまだだ。もう1本、最後の登山電車に乗り、欧州最高地点にあるユングフラウヨッホ駅(3454メートル)まで行かなければならない。この区間はほとんどの部分が岩山をくり抜いて作られたトンネルになっており、3つある途中駅のうち2つは山中に造られている。人によっては海抜2000メートルを超えるあたりから目まい、頭痛、吐き気といった高山病の症状が現れるため、列車は途中駅で10分程度の休憩を挟みながらゆっくり登って行く。終着は「Top of Europe」のキャッチフレーズで知られるユングフラウヨッホ駅。かくいう筆者も数十メートル歩いただけで軽い目まいを感じた。体の発する黄色信号だ。

クライネシャイデックから登山鉄道に乗りユングフラウヨッホへ向かう(左)、ユングフラウヨッホへ向かう途中の地下駅で10分の休憩(右)

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