約9割のビジネス書は、ゴーストライターが書いている吉田典史の時事日想(1/3 ページ)

» 2010年05月21日 08時00分 公開
[吉田典史,Business Media 誠]

著者プロフィール:吉田典史(よしだ・のりふみ)

1967年、岐阜県大垣市生まれ。2005年よりフリー。主に、経営、経済分野で取材・執筆・編集を続ける。雑誌では『人事マネジメント』(ビジネスパブリッシング社)や『週刊ダイヤモンド』(ダイヤモンド社)、インターネットではNBオンライン(日経BP社)やダイヤモンドオンライン(ダイヤモンド社)で執筆中。このほか日本マンパワーや専門学校で文章指導の講師を務める。

著書に『非正社員から正社員になる!』(光文社)、『年収1000万円!稼ぐ「ライター」の仕事術』(同文舘出版)、『あの日、「負け組社員」になった…他人事ではない“会社の落とし穴”の避け方・埋め方・逃れ方』(ダイヤモンド社)、『いますぐ「さすが」と言いなさい!』(ビジネス社)など。ブログ「吉田典史の編集部」


 ビジネス書といえば「報告・連絡・相談の仕方」「プレゼンテーション」「ライティング」など、さまざまなテーマがある。20〜30代の読者であれば、こうしたビジネス書をよく読んでいるのかもしれない。しかしビジネス書の多くは、フリーライターが書いていることをご存じだろうか。俗に言うところの“ゴーストライター”である。東京・神田近辺の大手出版社Sの役員は、「ビジネス書の約9割はゴースト(ライター)が書いている」と言い切る。

 実は私もその1人なのだが、そもそもこの「ゴーストライター」の定義はあいまいである。何をもって「ゴーストライターが書いている」と言うのか、その基準がないのだ。だから、編集者によって表現の仕方が違う。「ゴースト」と言うこともあるし、漠然と「ライターが書く」と言う場合もある。

ゴーストライターの仕事

 ゴーストライターの仕事の進め方を簡単に紹介しよう。まず、出版社の編集者から私のもとにこういった連絡が入る。通常、メールが多い。

 「○○社の社長を著者にして、○○というテーマの本を今年の夏に出すことになりました。つきましては、口述をお願いできないものでしょうか?」

 この“口述”という言葉が、曲者なのである。常識的には「著者」(企業の経営者、芸能人、タレント、政治家、コンサルタント、医師、研究者など)がライターや編集者の取材に応じる形で答えていく。大体、1回の取材が通常2時間。それを5回ほどに分けて行うので、計10時間ほどの取材だ。それらを録音し、1つの話になるように構成し、1冊の本に仕上げていく。その期間は、早くて2カ月。長いときは半年を超えることもある。

 この一連の作業を口述と言うのだが、実はこの言葉についても三者の間でコンセンサスはほとんどない。三者とは著者、編集者、ライターを指す。ゴーストライターの定義がないのだから当然なのかもしれない。

 だから、著者が本の構成案(1章から最終章までを通常、ライターが考え、書く)にそって話すのだが、その流れはAからBに行くかと思いきや、なぜかDに飛び、そのままFに流れてしまうこともある。つまり、BもCもEもない。そのままでは1つのストーリーにならないので、文章にはできない。そこでライターがBもCもEについて聞き返す。

 ところが著者の大多数は自分で本を書いたことがないので、どう答えていいのか分からないのだ。頭の中に文章の仕上がりのイメージがないから、また脈絡がない話になっていく。特にベンチャーや中小企業の経営者に、こうした傾向が目立つ。こういう著者は「忙しくて時間がない。だから、(自分の話が)飛んでしまう」と話す。しかし、それは嘘ではないだろうか。素直に「本の作りが分からないから、どう話していいのかも分からない」と答えるべきだろう。

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