リストラを行っていながら、人事部の人間が増えている理由吉田典史の時事日想(1/3 ページ)

» 2010年04月02日 08時00分 公開
[吉田典史,Business Media 誠]

著者プロフィール:吉田典史(よしだ・のりふみ)

1967年、岐阜県大垣市生まれ。2005年よりフリー。主に、経営、経済分野で取材・執筆・編集を続ける。雑誌では『人事マネジメント』(ビジネスパブリッシング社)や『週刊ダイヤモンド』(ダイヤモンド社)、インターネットではNBオンライン(日経BP社)やダイヤモンドオンライン(ダイヤモンド社)で執筆中。このほか日本マンパワーや専門学校で文章指導の講師を務める。

著書に『非正社員から正社員になる!』(光文社)、『年収1000万円!稼ぐ「ライター」の仕事術』(同文舘出版)、『あの日、「負け組社員」になった…他人事ではない“会社の落とし穴”の避け方・埋め方・逃れ方』(ダイヤモンド社)、『いますぐ「さすが」と言いなさい!』(ビジネス社)など。ブログ「吉田典史の編集部」


 1カ月ほど前、20代後半の会社員数人と人事系の雑誌の取材を兼ねて食事をする機会があった。彼らが話していたことで印象に残った言葉がある。それは「社長や役員は成果主義を導入したことを反省し、それをあらためようとしている」というものだ。その根拠を聞くと、返事が返ってこなかった。企業の現場を知らずに発言を続ける作家や評論家などの受け売りをしているのだろう、と私は思った。

 私が大企業・中堅企業の役員や人事部を取材すると、成果主義を導入したことを「反省している」と述べた人は1人もいない。むしろ「これからもその制度を続けていく」といったニュアンスで答えるほうが多い。この数年間で30社ほどに尋ねて、25社以上は“制度継続”と答えている。

 こういう人事部員らとのやりとりで最近、気になることがある。それは、人事部の部員を増やす動きがあることだ。20〜40代の会社員は、この動きを警戒したほうがいい。1990年代後半以降、多くの企業はリストラの一環として人事部の人数を減らしてきた。例えば、2カ月ほど前に取材した会社(東証1部上場)の人事部は、給与計算や労働保険、社会保険の手続き業務などを外注(アウトソーシング)している。担当者に聞くと、部員の数を1990年代半ばころの半分近くまで減らしたという。

 ところが、一部の大企業(特にメーカー、金融機関など)はここ数年、人事部の人数を増やし始めた。景気が悪く、リストラをしているにも関わらずである。これまでとは真逆のこの動きと前述の成果主義とは関係があると私は見ている。結論から言えば、このような会社は成果主義をより精度の高いものにするために、人事部員の数を増やしているのだ。つまり「成果主義のバージョンアップ」である。間違っても、経営陣は成果主義の導入を「反省」などしていない。

 確かに成果主義の下、社内は変わりつつある。上司からの評価が高く、賞与などが同世代のほかの社員よりも上がる人がいる。一方で賃金が伸び悩み、不満を抱える人も増えてきた。それこそ「勝ち組」「負け組」である。この状態をずっと放置しておくと、会社として組織的な闘いができない。「勝ち組」の社員だけで会社は成立しないし、効果的な闘いもできないだろう。

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