メディアはどのように変化するのか? 米国の最新事例上杉隆×小林弘人「ここまでしゃべっていいですか」(5)(1/3 ページ)

» 2010年01月26日 08時00分 公開
[土肥義則,Business Media 誠]

 ジャーナリスト・上杉隆氏とインフォバーンの小林弘人CEOよる、対談連載5回目。購読部数や広告費の減少などにより、“逆風”が吹き荒れているメディア業界。米国では経営破たんに追い込まれた新聞社もあるが、その一方で新たなメディアも生まれつつあるようだ。米国の最新メディア事情について、小林氏が語った。

小林弘人(こばやし・ひろと)

1994年、インターネット文化を伝える雑誌『WIRED』日本版を創刊。1998年、株式会社インフォバーンを設立し、月刊『サイゾー』を創刊した。2006年には全米で著名なブログメディア『ギズモード』の日本版を立ち上げた。

現在、インフォバーンCEO。メディアプロデュースに携わる一方、大学や新聞社などに招かれ、講演やメディアへの寄稿をこなす。著書に『新世紀メディア論 新聞・雑誌が死ぬ前に』(バジリコ)のほか、『フリー 〈無料〉からお金を生みだす新戦略』(日本放送出版協会)の監修を務めている。


米国のメディア事情

小林 著書『新世紀メディア論 新聞・雑誌が死ぬ前に』の中でもジャーナリズムのことを書いていますが、インターネット上のジャーナリズムは会社というよりは属人性が高いですね。また、オープン志向が強いので「リンクジャーナリズム」が主流です。ネット上では同じリソースを共有し、議論が発展することがあるので、他社とか自社とかあまり関係ない。記事中にリンクを貼ることに対し、最近はようやく大手もほんの僅かですがリンクし始めています。本来ならば、いいことが書いてあれば競合他社の記事にもリンクを貼るし、客観的な資料にもどんどんリンクを貼っていきます。

 その一方、電波や紙などの有限資源を使うリアルメディアは「パッケージ型」であり、閉ざされた完成形ジャーナリズム。なので自社の記事にしかリンクを貼らなかったり、全くリンクを貼らないケースがほとんど。Twitterなどは「協調型ジャーナリズム」でもあり、複数が協力し合いながら記事を書いたりすることができます。例えばTwitter上で自分が足りないところを誰かが補ってくれたり、「自分が寝ます」とつぶやけば、その人の代わりに誰かがその話題の継続をリレーしてくれたりする。しかも、国籍は問わない。

 これまでのような「A社、B社……」といったような組織ジャーナリズムとは違うスタイルが生まれつつあるのではないでしょうか。一方の完成形メディアは、いま起きている流れとはすべて真逆です。ジャーナリズムというのは終わりがないので、つねに報道し続けなければなりません。なので完成形ジャーナリズムの対極はプロセスジャーナリズムであり、そこでは常に経過が報じられていきます。最近では完成形ジャーナリズムも、グーグルの「Livin storiesプロジェクト」を見るかぎり(関連リンク)、常に同じテーマをネット上で追えるようになりつつあります。

 米国における調査手法の事例でおもしろいな、と思ったものがあります。僕は「クラウド調査報道」と呼んでいます。例えば役所などに情報開示請求を出すと、大量の資料が手渡されます。通称、“紙爆弾”と呼ばれる嫌がらせです。そこでインターネット上で有志を募り、みんなで手分けして問題箇所を探し出したりしています。

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