職場では何が起きているのか? リストラとセクハラの温床に迫る吉田典史の時事日想(1/3 ページ)

» 2009年12月25日 08時00分 公開
[吉田典史,Business Media 誠]

著者プロフィール:吉田典史(よしだ・のりふみ)

1967年、岐阜県大垣市生まれ。2005年よりフリー。主に、経営、経済分野で取材・執筆・編集を続ける。雑誌では『人事マネジメント』(ビジネスパブリッシング社)や『週刊ダイヤモンド』(ダイヤモンド社)、インターネットではNBオンライン(日経BP社)やダイヤモンドオンライン(ダイヤモンド社)で執筆中。このほか日本マンパワーや専門学校で文章指導の講師を務める。

著書に『非正社員から正社員になる!』(光文社)、『年収1000万円!稼ぐ「ライター」の仕事術』(同文舘出版)、『あの日、「負け組社員」になった…他人事ではない“会社の落とし穴”の避け方・埋め方・逃れ方』(ダイヤモンド社)など。ブログ「吉田典史の編集部」


 憎むべき事件が会社の中で起きていた――。報道によると、自分の経営する会社の女性従業員に性的暴行をしてケガを負わせたとして、強姦致傷罪に問われた藤原淳被告(49)の裁判員裁判が行われた。神戸地裁は、懲役6年6月(求刑懲役7年)の判決を言い渡した。

 判決後、裁判員を務めた男性(27)は取材に応じ、性犯罪の量刑に関しこのように述べた。「自分自身の考えと法律上のそれとの間にギャップを感じた。法律は、国民感情についていけていないのではないかと思った」と(共同通信、12月18日)。

 経営者自らが社員に肉体関係を迫り、暴行にまで及ぶとなると、もはやセクハラを通り越し凶悪犯罪である。被告は、厳しい法の裁きを受けるべきだろう。服役後も何らかの形で償いを続けるべきではないか、と私は思う。

 何よりも、被害者の人権こそ守られなければならない。この女性の心の傷は被告が服役を終えた後も、きっと残るだろう。こう考えると、許しがたい犯罪だ。メディアも厳しいまなざしで報じていくことで、女性の人権を守る世論をつくる必要がある。読者の中には「ここまでヒドイ会社は少ない」と思う人がいるかもしれない。しかしほとんどの会社は、社内で起きた犯罪を公表しない。おのずと、正確なデータは得られないので、「少ない」とか「多い」と断言はできないのだ。

 だが、私が企業や労働組合などを取材していると、このような犯罪をする人が1990年代に比べて増えているのではないかと実感する。例えば、労働組合・女性ユニオン名古屋にもこのような相談が寄せられた。

 ある運送会社でトラックのドライバーとして働く女性社員がいる。運転技術は高く、仕事への姿勢もいいという。しかし、女の腕力などは男に比べると、やはり弱い。このドライバーも重い荷物を時間内でクルマに載せることができない。そこで仕方なく、ある男性社員に手伝ってほしいと頼んだ。しかし、その男はしだいに女に肉体関係を迫るようになった。

 女には、簡単に仕事を辞めることができない事情があった。離婚し、いまは1人で複数の子どもを育てる身だ。比較的賃金が高いドライバーになろうと思ったのも、そのような理由がある。男は、こうした弱みにつけこんで執拗(しつよう)に肉体関係を求め続け、暴行未遂事件にまで発展していった。女は恐怖を感じ、心が病んでいく。そして女性ユニオン名古屋に助けを求めたが、いまはうつ病になっているという。

 女性ユニオン名古屋は「うつ病が発病した原因はセクハラの加害者による暴行未遂事件と、その後、会社が再発防止措置をとらなかったことにある」ととらえた。そして、労働基準監督署に労災申請を認めるように迫った。

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