「これは恥辱だ」――環境先進国ドイツはCOP15をどう受け止めたか松田雅央の時事日想(1/2 ページ)

» 2009年12月22日 12時53分 公開
[松田雅央,Business Media 誠]

著者プロフィール:松田雅央(まつだまさひろ)

ドイツ・カールスルーエ市在住ジャーナリスト。東京都立大学工学研究科大学院修了後、1995年渡独。ドイツ及び欧州の環境活動やまちづくりをテーマに、執筆、講演、研究調査、視察コーディネートを行う。記事連載「EUレポート(日本経済研究所/月報)」、「環境・エネルギー先端レポート(ドイチェ・アセット・マネジメント株式会社/月次ニュースレター)」、著書に「環境先進国ドイツの今」、「ドイツ・人が主役のまちづくり」など。ドイツ・ジャーナリスト協会(DJV)会員。公式サイト:「ドイツ環境情報のページ


 12月7日からデンマークの首都コペンハーゲンで開催されていたCOP15(第15回気候変動枠組条約締約国会議)が先ごろ終了した。2013年以降の“ポスト京都議定書”をめぐり、「気温上昇を2度以内に抑える」「2050年までに全体の排出量を50%削減」「先進国の排出量を80%削減」など野心的な目標が提示されたものの、結局は途上国と先進国の対立が解けず不十分な内容に終わった。

 会議は最終日18日の深夜になっても調整がつかず、19日未明にやっと閉幕。交渉決裂を避けるため、焦点だった削減義務は盛り込まず合意は来年に持ち越された。

 拘束力のある政治的合意がなされず、期待されたもののうち最小の成果しか残せなかった会議をドイツはどのように受け止めているのか。今回はキーパーソンの発言とメディアの報道を基にドイツの視点でCOP15を概観してみたい。

コペンハーゲンは自転車都市。自転車道が整備され、通勤者のおよそ50%が自転車を利用している。自転車の積極的な利用もCO2排出削減に貢献

「フラストレーションの残った首脳会談」

 COP15の結果を伝えるフランクフルター・アルゲマイネ紙(全国新聞)の記事(19日)の見出しは「フラストレーションの残った首脳会談」。世界で温室効果ガス排出削減の先頭を走るドイツにとって不満の残る内容であったことは間違いない。

 「これは恥辱だ。各国首脳が自分たちの子どもや孫の未来をもてあそんでいるのだから。国際協力は破局している」。SPD(ドイツ社会民主党)党首シグマー・ガブリエル氏のコメントである。SPDはこの9月までCDU(キリスト教民主同盟)と連立政権を組み、ガブリエル氏は環境相を務めていた。なおSPDは1998年から2005年まで緑の党と連立を組み、ドイツの環境政策はこの時期に大きく前進している。

 緑の党のクラウディア・ロース党首は戸惑いと怒りを隠さずこう語った。「コペンハーゲンの首脳会談は崩壊した」。気候保護のために193の国と地域の首脳が集まるという史上初の機会を生かしきれなかったことに対する失望は大きい。ロース党首は続けて「要するにこの地球を継ぐ子どもたちを裏切ったことになる」。

 COP15後、CDUのノルベルト・ロッテュゲン環境相がコペンハーゲンで残したコメントにも悔しさがにじむ。「我々は多くを望んだが、結果はあくまで実現可能な範囲に落ち着いた。歴史的な好機を逃したことは非常に残念である」。

 キーパーソンのコメントをさらに紹介しよう。

 110年の歴史を持つドイツ最古、そしてドイツ最大(協会員約40万人)の環境保全団体NABU(ナブー)のオーラフ・チンプケ代表の言葉を借りればCOP15の結果は「誤った妥協」となる。国際合意という美観を取り繕うため、安易な妥協を選択したことへの批判である。

 NABUに次ぐ規模の環境保全団体BUND(ビー・ウー・エヌ・デー)のフーベルト・ヴァイガー代表は「世界がコペンハーゲンに注目し、そして失望した。コペンハーゲンの結果は世界気候への平手打ちである」。

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