この手口で、会社を辞めさせられる……配置転換に潜むワナ吉田典史の時事日想(1/3 ページ)

» 2009年12月18日 08時00分 公開
[吉田典史,Business Media 誠]

著者プロフィール:吉田典史(よしだ・のりふみ)

1967年、岐阜県大垣市生まれ。2005年よりフリー。主に、経営、経済分野で取材・執筆・編集を続ける。雑誌では『人事マネジメント』(ビジネスパブリッシング社)や『週刊ダイヤモンド』(ダイヤモンド社)、インターネットではNBオンライン(日経BP社)やダイヤモンドオンライン(ダイヤモンド社)で執筆中。このほか日本マンパワーや専門学校で文章指導の講師を務める。

著書に『非正社員から正社員になる!』(光文社)、『年収1000万円!稼ぐ「ライター」の仕事術』(同文舘出版)、『あの日、「負け組社員」になった…他人事ではない“会社の落とし穴”の避け方・埋め方・逃れ方』(ダイヤモンド社)など。ブログ「吉田典史の編集部」


 会社からすると、正社員の解雇は避けたいことである。その理由は、前回の時事日想で紹介したとおりだ。では、辞めさせようとする社員をそのまま放置しておくのだろうか。おそらく、その可能性は低い。ある弁護士の言葉を借りると、「真剣に辞表を書かせる」ようにするはずだ。つまり、自主退職に追い込むのである。

 そのときの武器が、配置転換だ。社員を辞めさせるときにこれほど便利な“ツール”はないだろう。

 私は従業員数50人ほどの会社であれば、配置転換は必要だと思う。会社員のころを振り返っても、スキルやノウハウ、知識などを高めていくうえでメリットが大きいと言える。マンネリを防ぐことができたり、職場や取引先の人間関係も変えることができる。メンバーが変わることで、職場も活性化されるだろう。

 しかし、陰の部分にも目を向けるべきである。その一例として、NTT西日本の現・元社員計21人が、リストラによる遠隔地への配転は不当として慰謝料などを求めた訴訟がある。NTT西日本は、51歳以上の社員に賃金カットをともなう子会社での再雇用か、全国異動がある残留かを選択させる合理化を発表した。少数派の労働組合に籍を置く21人は、その選択をしなかった。そのため残留扱いとなった。しかし、中四国勤務の場合は大阪に、大阪勤務の場合は名古屋などに配転させられた。

 二審判決は、NTT西日本に計900万円の慰謝料の支払いを命じた、NTT西日本側は、これを不服として上告。最高裁は、17人については上告を退ける決定をした(共同通信社、12月14日)。ここからが重要なのだが、二審の判決では、次のようなことが述べられている。

 「17人の配転について、配転先での業務内容は単純かつ機械的なものなどで必要性が乏しい。長時間の新幹線通勤や単身赴任をさせてまで行う必要性はなかった」

 つまり、この会社は社員たちに精神的になえさせるような配置転換を行うことで、辞表を書くように仕向けていたのだ。このような会社は、実は多い。私がかつて勤務していた会社もこうした不当な行為を行っていた。

 ほとんどの会社の就業規則には配置転換の欄にこう書いてある。「業務上の必要性があるときは、配置転換を行う」。会社は、この文言を盾に配置転換を命じるのだ。だが、その「業務上の必要性」がどうもうさんくさいことがあるのだ。この裁判は、それを公明正大な場で明らかにした点で、訴えた社員たちは大いに評価されていいのではないだろうか。

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