どんな記者が引き抜かれていくのか? メディア界の2007年問題相場英雄の時事日想(1/2 ページ)

» 2009年09月17日 10時00分 公開
[相場英雄,Business Media 誠]

相場英雄(あいば・ひでお)氏のプロフィール

1967年新潟県生まれ。1989年時事通信社入社、経済速報メディアの編集に携わったあと、1995年から日銀金融記者クラブで外為、金利、デリバティブ問題などを担当。その後兜記者クラブで外資系金融機関、株式市況を担当。2005年、『デフォルト(債務不履行)』(角川文庫)で第2回ダイヤモンド経済小説大賞を受賞、作家デビュー。2006年末に同社退社、執筆活動に。著書に『株価操縦』(ダイヤモンド社)、『ファンクション7』(講談社)、『偽装通貨』(東京書籍)、『みちのく麺食い記者・宮沢賢一郎 奥会津三泣き 因習の殺意』(小学館文庫)、『みちのく麺食い記者・宮沢賢一郎 佐渡・酒田殺人航路』(双葉社)、『完黙 みちのく麺食い記者・宮沢賢一郎 奥津軽編』(小学館文庫)、漫画原作『フラグマン』(小学館ビッグコミックオリジナル増刊)連載。


 「2007年問題」という言葉をご存じだろうか? 団塊世代の大量離職が始まり、日本の優れた技術の継承に支障が出ることを危惧(きぐ)する言葉だ。主に製造業などの生産現場で使われる場合が多いが、今回はこれをメディア業界に当てはめてみる。メディア自身のことなので今までほとんど触れられる機会がなかったが、実はこの問題は業界全体に重くのしかかってきた課題でもあるのだ。

即戦力を引っこ抜け

 「新人を教育している暇はない。即戦力となる人材を引っこ抜いてこい」――。筆者がフリーになる直前の2006年半ば、某大手メディアの幹部が発した言葉が業界で話題を集めた。

 モノ作りの現場で優秀なエンジニアが大量離職する時期、すなわち「2007年問題」が懸念されたタイミングで、実はメディア界でも同じ問題が持ち上がっていたのだ。ベテラン記者の大量退職により、全国、ひいては世界中に張りめぐらされた大手メディアの取材拠点で、“人繰り”がタイトになることが原因だった。

 会社によって人事のサイクルはまちまちだが、1年に1回、あるいは2回の頻度で記者が所属記者クラブや持ち場を替わることは珍しくない。

 こうしたサイクルを維持するためには、常に記者クラブやそれぞれの持ち場ごとに記者の数を確保する必要が出てくるわけだ。そこに2007年問題が浮上し、大手メディア各社が対応に追われたのだ。

 記者のスキルは一朝一夕に身に付くものではない。ベタ記事の書き方から始まり、夜討ち朝駆けを繰り返すことで、早い人で1年、1人前の記者になるのに2〜3年かかる向きも少なくない。

 全国、そして世界に広がった取材拠点に万遍なく記者を配置するためには、列車の運行ダイヤを管理するがごとく、綿密な人事サイクルを運営する必要があるのだ。

 当コラムでも触れたが、大手メディア各社のトップは記者上がりでこうした綿密な管理業務に極めて疎い(関連記事)。このため、製造業や流通業と比較した場合、2007年問題への対応が後手後手に回ったことは否めない。そして自社の人事サイクルを維持するために、冒頭のような強引とも受け取れる幹部発言が飛び出したのだ。

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