交通を軸に「地域のカード」へ――IC利用率78%のIruCaの今(前編)神尾寿の時事日想・特別編(1/3 ページ)

» 2009年06月22日 11時30分 公開
[神尾寿,Business Media 誠]

著者プロフィール:神尾 寿(かみお・ひさし)

IT専門誌の契約記者、大手携帯電話会社での新ビジネスの企画やマーケティング業務を経て、1999年にジャーナリストとして独立。ICT技術の進歩にフォーカスしながら、それがもたらすビジネスやサービス、社会への影響を多角的に取材している。得意分野はモバイルICT(携帯ビジネス)、自動車/交通ビジネス、非接触ICと電子マネー。現在はジャーナリストのほか、IRIコマース&テクノロジー社の客員研究員。2008年から日本カー・オブ・ザ・イヤー(COTY)選考委員、モバイル・プロジェクト・アワード選考委員などを勤めている。


 四国の玄関口である香川県高松市。ここに小規模ながら、驚異的な利用率を誇る交通ICカードがあることを覚えているだろうか。高松琴平電気鉄道(ことでん)の「IruCa(イルカ)」である。2007年に本誌でもレポートしたが、IruCaはことでんの鉄道・バスで利用可能な交通ICカードであり、その利用率が約78%と高いことが特徴であった。

 その後、IruCaは高松の街に根ざしてサービスを拡大し、2009年時点で発売枚数は約15万枚にまで達した。さらに電子マネーの本格展開や、様々な新サービスへの取り組みを行っているという。

 そこで今回の時事日想は特別編として、香川県高松市から、ことでん「IruCa」の現状をレポートする。

中心市街地活性化と公共交通の連携を目指すIruCa

 IruCaは首都圏でおなじみのSuica/PASMOと同じ、交通系のFeliCaカードだ。導入は2005年2月からであり、プリペイド型の交通IC乗車券および電子マネーサービスを高松で展開している。利用エリアはことでん全線51駅と、ことでんバス全路線の83両。今のところほかの公共交通事業者との相互利用化は行われていない。

 そしてIruCaの特徴は、何といっても“利用率の高さ”である。交通分野におけるIruCaの利用率は平均78.4%であり、駅の自動改札はすべて「IruCa専用」だ。ことでんは自動改札の導入が他地域の鉄道会社よりも遅く、磁気式切符やプリペイドカードを導入せずに、一足飛びでIruCaを導入した。そのため交通ICカードが一気に普及し、首都圏のJR東日並みの高い利用率となったのだ。

ことでんの駅風景。利用率78%強ということもあり、IruCa専用改札がずらりと並ぶ。さらに首都圏でおなじみのICカード対応のコインロッカーも整備されていた。

高松琴平電気鉄道 経営企画室およびIC拡張推進室 部長の岡内清弘氏

 この交通分野での高い普及率と利用率を背景に、IruCaは今、「地域のカードを目指している」と高松琴平電気鉄道 経営企画室およびIC拡張推進室 部長の岡内清弘氏は話す。

 「IruCaの大きな目標として、(高松市の)中心市街活性化というものがあります。IruCaという1枚のICカードで、中心市街地の商業と公共交通をシームレスに結びつける。それにより市街地を活性化したいという狙いがあります。この“地域カード”を目指すという立場から、ことでんでは行政と連携を取りながら、(IruCaを用いた)中心市街地活性化事業に2005年から取り組んできました」(岡内氏)

 この最初のステップとなったのが、IruCa電子マネーの地域展開である。2007年当時、筆者が取材した時は、経済産業省に採択された「IruCaカードを活用した中心市街地活性化事業」がスタートする直前であり、中心商店街の一部がIruCa電子マネーの加盟店となっていた。その後、中心市街地へのIruCa電子マネーの浸透が進み、電子マネー端末(R/W)の設置台数は約200台に達しているという。また駅以外でのチャージ環境も整備されており、約10台の現金チャージ機が“駅以外”に設置されている。

 しかし、岡内氏によると、現在の電子マネーの加盟店開拓は、当初計画よりも少ないという。さらに驚くべきことに、「今は加盟店をとにかく増やすという考えではない」(岡内氏)というのだ。

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