「後追いauから、先行くauへ」――高橋誠氏に聞く、KDDIの“次の一手”(前編)神尾寿のMobile+Views(1/2 ページ)

» 2009年05月25日 21時29分 公開
[神尾寿,ITmedia]
Photo KDDI 取締役執行役員常務の高橋誠氏

 第3世代へのすばやい移行と、その優位性の下に投入されたパケット料金定額制、それを前提にしたさまざまな新サービス……。一時期、“auブランド”が輝いていたのは紛れもない事実だ。KDDIのauはモバイル市場のキャスティングボートを握り、MNP開始前後では業界のガリバー、NTTドコモに危機感を抱かせるまでの存在になっていた。

 しかし、状況は一転する。

 MNP開始直後から、ソフトバンクモバイルが料金値下げと端末ラインアップの充実で猛攻。都市部の大手量販店を拠点に勢力を伸ばし、KDDIがその大半の獲得を目論んでいたMNPによる流動シェアと新規純増シェアをかっさらった。さらにNTTドコモも2007年から2008年にかけて市場競争力を回復。解約率を1%以下まで一気に下げて、ドコモは“負けないから勝ち”という状況を作りあげた。

 かくしてKDDIの「ひとり勝ち」シナリオは画餅となり、auは市場での主導権を失った。店頭競争力という点でも、この1年あまりはドコモとソフトバンクモバイルに押されているのが実情だ。

 かつてのauブランドの輝きは、このまま蜃気楼のように消えてしまうのか。それとも、この苦境を乗り越えて再びキャスティングボートを握り、モバイル業界にその実力と存在感を示すのか。

 2009年夏商戦モデル発表にあたり、KDDI 取締役執行役員常務の高橋誠氏にインタビューし、au、そしてKDDIの「今」と「未来」について、その戦略と意気込みを聞いた。

Photo auの夏モデル。個性的な端末をそろえて夏商戦に挑む

「失われた商品力」に回復の手応え

ITmedia(聞き手:神尾寿) この半年ほど、auを取りまく競争環境は厳しくなっています。苦境に立たされているという見方もできるわけですが、auが指向している戦略的な方向性は、モバイルICTの将来トレンドから大きく外れているわけではありません。LISMO、au Smart Sportsau BOX(STB)、EZナビウォークの機能強化など、個々の取り組みや目の付けどころといった点では、auは今までと変わらず先見性があります。指向している方向が間違っていないにもかかわらず、なお、auが苦境なのはなぜなのでしょうか。

高橋誠氏 いきなり厳しい質問ですね(苦笑)。そうですね、やはり(端末の)「商品力」の影響なのでしょう。

 この2年間、商品力で苦しんできました。KCP+のパフォーマンスが上がらず、端末プラットフォーム移行の点で苦しんでいたというのが1つ。またMNPで戦ったあとだったので、商品ラインアップの特徴が乏しくなってしまった。個々の端末コンセプトが似通ってしまい、個性的なモデルが登場しにくくなってしまったのです。この状況から脱するべく、昨年から“あがいている”のが現状ですね。

ITmedia コンテンツサービスと端末のセットでの訴求では、他キャリアより一歩先んじていますね。(au Smart Sports向けの)「Sportio」などは、私も高く評価しています。

高橋氏 確かにSportioや「Walkman Phone, Xmini」といったコンテンツ指向の強い特化型モデルというのは、お客様に注目していただけました。しかし、それが(販売現場における)数につながっているかというと、残念ながらそうではありません。

 むろん、手応えも現れはじめています。直近のモデルで言いますと、「Walkman Phone, Premier3」や「Cyber-shotケータイ S001」などは(既存の)auユーザーだけでなく、新規顧客の獲得にもつながりはじめました。

Photo 左からSportio、Walkman Phone, Premier3、Walkman Phone, Xmini

ITmedia auにしかラインアップされていない、個性的なモデルが評価されるようになってきた、ということですね。

高橋氏 そのとおりです。今回の夏商戦モデルを見ていただいても、「ケータイ業界でNo.1にいくぞ」という気合いを感じていただけるんじゃないでしょうか。商材が整ってきており、商品力も回復しているのではないかと考えています。

ITmedia ターゲット分野を設定してそれぞれコンセプトに合ったモデルを分散投入するという手法は、ドコモの4シリーズ化とも通じる部分がありますが、今回のauの夏商戦ラインアップは、それぞれのターゲット分野で見ても先鋭的なモデルが多いですね。ドコモソフトバンクモバイルとの差異性を、かなり強く意識して開発したという印象を受けました。

高橋氏 かなり“突き抜けている”でしょう?(笑)それは狙ってやっています。もちろん、そういった先鋭的なモデルだけではなくて、(需要の高い)ミドルレンジの端末もきっちりやらないといけない。そこでもスペックとクオリティの底上げをしていきます。

 ほかにも、機能やスペックではなく、感性やデザインも重視する必要があります。そこは「iida」のミッションになるわけですが、先に市場投入した「G9」などは順調に(販売が)伸びています。

Photo iidaブランドの「G9」

ITmedia 今回の夏商戦ラインアップを見渡すと、「biblio」や「Sportio water beat」、「Mobile Hi-Vision CAM Wooo」などフラッグシップモデルの存在感が強く、ドコモのSTYLEシリーズなどと比較して、「ミドルレンジの布陣が薄くはないか」という危惧も感じました。しかし、それはあえて行った戦略であり、対策も講じているということでしょうか。

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