実用燃費や使い勝手はどうか!?――ホンダ「インサイト」でロングドライブしてみた神尾寿の時事日想・特別編(1/3 ページ)

» 2009年05月11日 07時00分 公開
[神尾寿,Business Media 誠]

著者プロフィール:神尾 寿(かみお・ひさし)

IT専門誌の契約記者、大手携帯電話会社での新ビジネスの企画やマーケティング業務を経て、1999年にジャーナリストとして独立。ICT技術の進歩にフォーカスしながら、それがもたらすビジネスやサービス、社会への影響を多角的に取材している。得意分野はモバイルICT(携帯ビジネス)、自動車/交通ビジネス、非接触ICと電子マネー。現在はジャーナリストのほか、IRIコマース&テクノロジー社の客員研究員。2008年から日本カー・オブ・ザ・イヤー(COTY)選考委員、モバイル・プロジェクト・アワード選考委員などを勤めている。


 2008年の新車販売市場は、300万台の大台を割る約289万台という結果だった。都市在住者を中心とした「クルマ離れ」、2008年9月以降の金融不況の影響などもあり、国内の自動車市場はかつてない逆風の中にある。

 そのような中で、久しぶりに明るい話題を振りまくクルマとなったのが、本田技研工業の「インサイト」だ。5ナンバーサイズのコンパクトボディに先進のハイブリッドカーシステムを搭載し、ベーシックグレードは200万円を切る価格を実現。20〜30代の若者や女性、若いファミリー層にも手が届く“カジュアルなハイブリッドカー”として登場し、人気を集めている。

 その後、トヨタ自動車が新型プリウスの情報を先行発表したことで、インサイトの話題性はやや薄まってしまったが、それでも「トヨタ以外から、本格的なハイブリッド専用車」が出たことは意義深い。インサイトとプリウスともに価格帯が200万円前後に収まったこと、さらに景気振興策と連動したエコカー減税などの効果もあり、今年はハイブリッドカー元年になりそうである。

 では、インサイトはどれだけ実用性があり、魅力的なのか。今回の時事日想では特別編として、GW中の東北道をインサイトでロングドライブ。東京〜仙台の往復約800キロのレポートと、都内で試乗した際の使い勝手やインプレッションをお届けする。

本田技研工業のハイブリッドカー「インサイト」

インサイトとプリウス、ハイブリッドシステムの違い

 さて、ここでハイブリッドシステムの現状について、簡単におさらいしておこう。インサイトとプリウスは、同じハイブリッドカーといってもシステム構成が大きく異なる。

 インサイトの心臓部である「ホンダ IMA(Integrated Motor Assist)システム」は、エンジンと電気モーターのふたつの動力源が並行して駆動する“パラレル方式”を採用。「エンジンの足りない力をモーターがアシストする」というコンセプトで作られている。あくまで主役はエンジンだ。

 一方のプリウスが採用する「Toyota Hybrid System」では、動力分割機構を搭載する“スプリット方式”を採用している。これはエンジンとモーターの動力を状況に応じて柔軟に切り替え/組み合わせて利用し、発電量と駆動力をより効率良く制御するものだ。主役はエンジンとモーターの両方だが、稼働時間でみればモーターの方がより積極的に使われる。

 パラレル方式とスプリット方式のどちらが優れているのか。これは自動車業界の中でも議論が分かれているものであり、一概に言い切ることは難しい。

 パラレル方式の優位性は、その機構がシンプルであり、小型軽量化や低コスト化がしやすい点にある。実際、インサイトは車台のかなりの部分をホンダのコンパクトカー「フィット」と共有しているが、IMAがコンパクトだったため、その小さなパッケージでもハイブリッド化が実現できた。またハイブリッドシステムが軽いということは、エンジン主体で走る走行領域において実用燃費を向上する効果もある。

 しかし、その反面、パラレル方式ではモーターはあくまでエンジンの補佐であるため、“モーターだけで走る”ことはできない。インサイトではエンジンの気筒休止技術を用いて、モーター動力だけを利用する走行モードも存在するが、それはエンジン内に燃料が噴射されていないだけで完全に停止しているわけではない。またモーターの貢献度が小さいため、ハイブリッド化による直接的な燃費向上効果は、後述するスプリット方式ほど大きくない。

 一方、スプリット方式の優位性は、エンジンとモーターの動作を効率よく制御すれば、パラレル方式以上の低燃費が実現できることだ。実際、歴代のプリウスはほかのパラレル方式ハイブリッドカー以上の燃費性能をマークしている。またパラレル方式と違い、主動力を切り替えられるので“モーターだけ”の走行も可能だ。

 こうしたメリットがある反面、スプリット方式は機構そのものが複雑であり、小型軽量化や低コスト化がパラレル方式よりも難しいという弱点を持つ。例えば、長年スプリット方式を採用するトヨタにしても、今後登場するプリウスより小さいコンパクトカークラスのハイブリッド化は、現行のTHSと異なる方式になるだろうとコメントしている。

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