環境保護が生むグリーン雇用――環境大国ドイツの戦略松田雅央の時事日想(1/2 ページ)

» 2009年03月10日 07時00分 公開
[松田雅央,Business Media 誠]

松田雅央(まつだまさひろ):ドイツ・カールスルーエ市在住ジャーナリスト。東京都立大学工学研究科大学院修了後、1995年渡独。ドイツ及びヨーロッパの環境活動やまちづくりをテーマに、執筆、講演、研究調査、視察コーディネートを行う。記事連載「EUレポート(日本経済研究所/月報)」、「環境・エネルギー先端レポート(ドイチェ・アセット・マネジメント株式会社/月次ニュースレター)」、著書に「環境先進国ドイツの今」、「ドイツ・人が主役のまちづくり」など。ドイツ・ジャーナリスト協会(DJV)会員。公式サイト:「ドイツ環境情報のページ(http://www.umwelt.jp/)


 改めて書くまでもなく、日本は世界に冠たる“環境技術大国”である。

 深刻な環境汚染を克服した環境技術、エネルギーを輸入に頼らなければならないが故の省エネ技術、加えて太陽電池などの環境素材にも強い。しかし、「環境大国か?」と問われると、残念ながら「そうだ」とは言えないところが苦しい。

 そもそも何をもって環境大国と言うかだが、私は第一に環境政策の先進性と充実度を挙げる。もう1つは、個人だけでなく企業・自治体・国も含めた環境意識のレベルの問題だが、これについては別の機会に論じることとしよう。

 自治体と国がそれぞれのレベルで環境保護の目的をはっきりさせ、その上で短期・中期・長期の環境戦略を立案する。そしてそれを絵に描いた餅に終わらせず、実効性のある社会制度として整備していく能力に優れるのが環境大国である。

日本でも始まる太陽光発電の高額買い取り

 環境政策といえば、日本でも2010年度から太陽光電力の高額買い取り制度が導入されるというニュース(参照リンク)があった。

 この制度は一般に「固定価格買い取り制度」と呼ばれ、ドイツをはじめとする多くの欧州諸国が取り入れていることからも分かる通り、再生可能エネルギー促進に効果的だ。日本で予定されている制度は「家庭の太陽光発電に限る」などまだ制限が多いものの、環境経済政策の大きな転換として注目したい。

 太陽光発電をはじめとする再生可能エネルギー※は時事日想でも断続的に取り上げているテーマだ。ここでは固定価格買い取り制度の説明は省くが、再生可能エネルギー促進の財源を補助金に頼るのではなく、消費者に広く薄く負担を求めるのがこの制度の特徴と言える。

※再生可能エネルギー……太陽光、風力、水力、バイオマス、地熱といった自然エネルギーや循環型エネルギーの総称。また、ゴミ埋め立て処分場から収集したり、生ゴミ発酵処理場で生産するメタンガスを含む。

 「断固反対。財政の無駄遣いを改め、その分を当てれば消費者に負担を求める必要はない」という意見もあるが、そこで引っかかっていては話が先に進まない。注目すべきは、この固定価格買い取り制度が再生可能エネルギーの普及を急拡大させる力を持っており、顕著な経済効果、特に雇用創出効果を持つことである。短絡的な書き方ではあるが「家庭の電力料金が月100円上がる代わりに、日本全体で数十万人分のグリーン雇用(環境雇用)が見込める」となれば、導入しない手はないだろう。

ドイツの部門別環境産業就業者数(2006年)、1:再生可能エネルギー、2:環境投資、3:環境保護活動、4:輸出入、5:関連業務(左、出典(以下の図も同じ):BMU、Broschure-Umweltschutz schafft Perspektiven、2009)、再生可能エネルギー部門の就業者数推移、上から風力、バイオマス、ソーラーエネルギー、水力、地熱、その他。薄い緑は2004年、中間の緑は2006年、濃い緑は2007年(右)

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