金融マンだけではない。マスコミ関係者もインサイダーに注意せよ山崎元の時事日想(1/2 ページ)

» 2009年02月26日 07時00分 公開
[山崎元,Business Media 誠]

著者プロフィール:山崎元

経済評論家、楽天証券経済研究所客員研究員、1958年生まれ。東京大学経済学部卒業後、三菱商事入社。以後、12回の転職(野村投信、住友生命、住友信託、シュローダー投信、バーラ、メリルリンチ証券、パリバ証券、山一證券、DKA、UFJ総研)を経験。2005年から楽天証券経済研究所客員研究員。ファンドマネジャー、コンサルタントなどの経験を踏まえた資産運用分野が専門。雑誌やWebサイトで多数連載を執筆し、テレビのコメンテーターとしても活躍。主な著書に『会社は2年で辞めていい』(幻冬舎)、『「投資バカ」につける薬』(講談社)、『超簡単 お金の運用術』(朝日新書)など多数。ブログ:「王様の耳はロバの耳!


 証券会社や運用会社の社員は、仕事で得た情報を個人の投資に生かして、大いに稼いでいるのではないか。「インサイダー取引」という言葉がニュースにも登場するようになったので、最近は減ったかもしれないが、世間ではまだそう思っている人がいるようだ。筆者も「ところで、ヤマザキさん個人の運用は、どんなポートフォリオになっているのですか」という質問を受けることが、これまでにもあったし、これからも時々ありそうだ。

 あらかじめお答えしておこう。筆者はたいした金融資産を持っているわけではないが、現在、自分の金融資産は複数の銀行の預金とMRF(マネー・リザーブ・ファンド)だけ。もっと正確に報告すると「楽天グループの全社員に」ということで三木谷浩史氏から贈与を受けた楽天の株式が1株(時価、約5万円程度)あるが、このほかに株式や投資信託などは持っていないし、個人年金保険(変額保険)もない。

自分のお金を運用する人は「プロではない」

 一般論として考えると、ある程度の金額はリスク資産で運用した方がよかろうし、個別株への投資も含めて投資は好きだ。しかし仕事柄、マーケットの動向や運用の方法についてメディアでコメントすることが多いので、自分で投資することを控えている。

 例えば、自分がA社の株式を持っているとする。そしてA社についてプラスの材料をコメントすると「自分の持ち株の値上がりのために、“買い推奨”している」と取られるだろう。逆に自分のコメントからA社を外すことにすると「本当はいいと思って持っている銘柄なのに、それを言わないは不誠実だろう」という自責にさいなまれる。この点がどうにも面倒なので、所属会社(楽天証券)のルール上、株式投資を全くやってはいけないということはないのだが(会社に届けて会社で売買し、会社の口座で一定期間以上保有するなら、持ってもいいことになっている)、現在、個人としては株式に投資していない。

 証券会社や運用会社では、通常、社員の株式投資に何らかの規制を設けている。証券会社の場合、自社の口座でだけ取引をすることと買った株式は一定期間以上(短くて1カ月、長くて半年くらいの期間)保有すること、といった条件の下に、社員の株式投資を制限している。また引き受け部門(株式の引受・公開・審査)など、企業の内部情報に触れやすい部署では、全面禁止になっている場合が多いなど、部署によって社内規制を変えているケースもある。

 業界用語では、自分が所属する以外の証券会社に口座を持って売買注文を出すことを「地場出し」(地場証券に隠し口座を持つことが多いからだろう)と称し、また個人資産で相場を張ることを「手張り」と称する。前者はルール違反だし、どちらにも「隠れてする悪いこと」のニュアンスがつきまとう。

 運用会社の場合は、顧客のお金を動かしていることもあり、証券会社よりも厳しく社員の個人投資を規制している場合が多い。かつて筆者が在籍した投資信託運用会社では、個人の株式投資は全面禁止だった。

 外資系の会社の方が社員の個人投資に甘い場合があるなど、意外なケースもあったが(小型株のファンドマネジャーの妻が夫のファンドの投資銘柄のワラント(発行会社の株式を買い付ける権利の付いた社債)を持っていて、これが社内で登録されていてあきれたことがある)、基本的には、個人投資は“御法度”といっていい。

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