さあ“こだわり”を捨てよう! それが運用の弱点だから山崎元の時事日想(1/2 ページ)

» 2009年01月29日 07時00分 公開
[山崎元,Business Media 誠]

著者プロフィール:山崎元

経済評論家、楽天証券経済研究所客員研究員、1958年生まれ。東京大学経済学部卒業後、三菱商事入社。以後、12回の転職(野村投信、住友生命、住友信託、シュローダー投信、バーラ、メリルリンチ証券、パリバ証券、山一證券、DKA、UFJ総研)を経験。2005年から楽天証券経済研究所客員研究員。ファンドマネジャー、コンサルタントなどの経験を踏まえた資産運用分野が専門。雑誌やWebサイトで多数連載を執筆し、テレビのコメンテーターとしても活躍。主な著書に『会社は2年で辞めていい』(幻冬舎)、『「投資バカ」につける薬』(講談社)、『超簡単 お金の運用術』(朝日新書)など多数。ブログ:「王様の耳はロバの耳!


超簡単 お金の運用術』(朝日新書)

 2008年の12月に、筆者は『超簡単 お金の運用術』(朝日新書)という本を出版した。これまでは、前提となる理屈を説明してから具体的な運用方法を説明するような本を書くことが多かったのだが、今回は、簡便法として割り切った具体的なマネー運用の方法をいきなり紹介した。

 簡単な方法なので、読者が拙著を買わずに済むように種明かしをしてしまうと、日本株と外国株式の株価指数に連動するインデックスファンド(日本株は「TOPIX」、外国株は「MSCI−KOKUSAI」)を大まかに4対6の比率で買う方法だ。このリスク資産の組み合わせを、「借金しない範囲で好きなだけ買って」、「貯金箱代わり」に使おうというもの。具体的な運用商品選択は、日本株はETF(上場型投資信託)なら「TOPIX連動型上場投資信託」(コード番号1306)または「STAM・TOPIXインデックス・オープン」(設定は住信アセットマネジメント)、外国株の選択は、ETFでは「iShares MSCI−KOKUSAI」(ティッカー・コードはTOK)、普通の投信なら「STAMグローバル株式インデックス・オープン」(設定は住信アセットマネジメント)である。

 ちなみに株式のリスクに投じたくない資金については、信用リスク上の優位性と利回りのそこそこの有利性の観点から、MRF(マネー・リザーブ・ファンド)か個人向け国債(10年満期・変動金利型)を購入することをお勧めした。

人間は「勝ち負け」にこだわる

 リスク資産(特に株式)の比率が高くても大丈夫なのか? と心配される人もいるだろうが、分散投資された株式の価値は案外安定していて、少なくともいきなりゼロにはならない。それが長期的に有利な投資対象で、かつ、いつでも容易に換金できるので、金融資産の大半をリスク資産に投入しても、案外大きな不都合はないはずだ。将来お金が必要になったら、必要なだけ解約して現金化すればいい。我々の多くは、長期のローンを組んだ住宅の購入とか、結婚(解約コストの非常に大きな「投資」だ)といった、株式投資よりも大きなリスクを平気で取っている。

 ところが、読者の反応をお聞きしてみると「自分の買値よりも安い価格で投資信託を売ることにどうしても抵抗感がある」、「理屈は分かるのだけれども、私にはできないかもしれない」という声が相当数ある。

 また、雑誌の取材や講演会などの質問でも、「現在、損をしてしまっているのですが、どうしたらいいですか?」というご質問が頻繁にある。

 「正解」は簡単で、「自分の買値を気にせずに、現状の価格で売りたいか、買いたいかを判断すればいい」ということだ。含み損は既に起こってしまった現実である一方、問題はこれからどうするかということだ。そして、自分の買値は市場の今後の動きに影響を与えるファクターではないのだから、現状を起点に物事を考えるしかない。自分の買値にこだわらずに、考えることが重要だ。

 しかし人間は、どうしても自分の運用の「損」、あえて中身を解釈すると「勝ち負け」にこだわるようだ。これは普遍的な傾向のようで、行動経済学の分野では「プロスペクト理論」という有名な理論で説明している。しかしプロスペクト理論も、人間が「なぜ」勝ち負けにこだわるのかを説明してはくれない。

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