2008年のPC業界はNetbookに始まり、Netbookで終わった。その流れは2009年に入っても止まらず、CES(コンシューマー・エレクトロニクス・ショウ)でも安価なPCが目白押し。不況ということもあり、もうしばらくその興隆は続きそうだ。しかし、外出のお伴にぴったりのNetbookは消費者には人気があるが、PC業界の内側からは違う声も聞こえてくる。
Netbookでは、CPUもケースもソフトもすべて低利益。在庫を抱えられないが、規模は追う必要がある。中心的な作り手の台湾メーカーはNetbookで自社ブランド展開ができたのはマルだが、必ずしも高品質イメージまで伴っていない。安価だからといって使い捨てされると、廃棄コストがかかるし環境にも悪影響だ。Netbookからは、Netbook後の未来が見えてこない。
一方で、Netbookの対極に位置する“一品物”のPCを制作する台湾人がいる。それはPC業界に精通し、滞日歴も長い梁育倫(りょういくりん)さん。彼が制作企画する漆塗りPCの価格は何と35万円から80数万円。日本の漆の技とPCをなぜ合体させたのだろうか?
梁さんは20歳で日本にやって来て、IntelとMicrosoftの代理店でマーケティングを担当してきた。中国語(北京語)と日本語が堪能で、両国のPC業界の成長、バブルとその崩壊、そして復活までを経験した。
モノ作りが好きな梁さんは、サンプルPCを片っ端から分解、再組み立てした。PCの内側にある台湾の技術は一級品。だがOEM※だけなので自己主張が不足。量産開発には長けているが、ソニーやAppleのようなデザイン性に乏しい。そのため、日本の消費者にはイマイチうけないのが台湾製品のイメージだ。しかし、梁さんは「カッコいいPCケースを製造したい」と思った。
最初のきっかけは秋葉原の自作PC展示会。そこでの展示品、あるアルミニウムPCケースのカッコ良さにほれた。「そうか、自分で作ればいいじゃないか」と、梁さんは人脈を生かして台湾メーカーに打診した。すると決まって聞かれたのは「何Kか?」、つまり「何千個のオーダーか?」だというのだ。しかし、大量生産品はいらない。欲しいのは、自分テイストのPCだった。
そんな思いをつのらせていたある日、林業会社の社長と飲み、PCにかける想いを語った。すると社長はこう言った。「じゃあ木で作ればいいじゃないか」
林業会社の社長ならではの発言。木ならば手作りの一品物も可能だ。すぐに木工家を探し、フルオーダーメイドで木工家具を制作する木香屋の石塚典男さんを訪れる。この出会いがなければ、そしてモノ創りにこだわりある石塚さんが「うん」と言わなければ、漆塗りPCは生まれなかっただろう。
art PC Ryouと名付けられた作品群を見せてもらった。「白偕(はくかい)」は微妙なRのあるケースに幾重にも漆が塗られる。つやの深い深緋色(こきあけいろ)と味わい深い濃藍色(のうらんしょく)。プラチナ粉も含んだ金色の波打ちの表現は、まさに“和モダン”。値段はペアで120万円。
「鼈甲(べっこう)」には“用の美”の極みがある。桂の木に漆を重ね、深い漆黒からは和のテイストを感じられる。私の写真の腕では、この美しさの半分も伝えられないのが残念だ。百聞は一見にしかず、PCディスプレイを通しての百見も実物の一見にしかず。目の当たりにすれば、本物の漆の迫力に圧倒されること請け合いだ。東京ミッドタウンのMade in Japanで常設展示販売を行っている。
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