荒稼ぎして“逃げた”輩たち――陽気な成果主義が招いた罪とは?山崎元の時事日想(1/2 ページ)

» 2008年11月27日 07時00分 公開
[山崎元,Business Media 誠]

著者プロフィール:山崎元

経済評論家、楽天証券経済研究所客員研究員、1958年生まれ。東京大学経済学部卒業後、三菱商事入社。以後、12回の転職(野村投信、住友生命、住友信託、シュローダー投信、バーラ、メリルリンチ証券、パリバ証券、山一證券、DKA、UFJ総研)を経験。2005年から楽天証券経済研究所客員研究員。ファンドマネジャー、コンサルタントなどの経験を踏まえた資産運用分野が専門。雑誌やWebサイトで多数連載を執筆し、テレビのコメンテーターとしても活躍。主な著書に『会社は2年で辞めていい』(幻冬舎)、『「投資バカ」につける薬』(講談社)、『エコノミック恋愛術』など多数。ブログ:「王様の耳はロバの耳!


 前回成果主義を名乗る人事・報酬制度には「陽気な成果主義」と「陰気な成果主義」があり、日本企業の多くは「陰気な成果主義」であると書いた。今回は、真の成果主義ともいうべき「陽気な成果主義」について考える。

 陽気な成果主義の具体例については、外資系の投資銀行のような会社をイメージしていただけると分かりやすいが、基本的には、社員個人が稼いだ利益に対して概ね比例的なボーナスを青天井で支払うようなシステムだ。

 例えば、株式のセールスをしている30歳の社員がいるとしよう。給料は1500万円を12分割して毎月もらうが、彼が1年間に10億円の手数料を稼いだとすると、この10%の1億円のボーナスを手にする、というような仕組みだ。ボーナスは本社の業績も含めて会社全体の業績の影響を受けるし、「チームに対する貢献」といった定性的な要素が反映することもあるが、その金額は概ね稼ぎに比例的だ。

 また、主にビジネスに伴うリスクを反映してだが、株式や債券の自己売買を行うトレーダーや、金額の大きな案件を扱うM&Aの担当者などは、個人の1年の稼ぎが数十億円になる場合もあるので、数億円のボーナスということも十分にあり得る。外資系といえども、社員相互間のお金に関する嫉妬はあるが、「会社のために稼いでくれたのだから、高額のボーナスは当然だ」「もっと稼いでくれたら、もっと払ってもいい」というのが基本思想だ。日本会社にありがちな、「あの稼ぎは本人の能力によるものではなく、会社の名前があってできたものだ」と言いたがるような、しみったれた思考はない。「陽気な」と名付けた所以だ。

 →給料に不満を感じる理由――日本に根付く“陰気な成果主義”とは?(前編)

陽気な成果主義には2つの長所

 陽気な成果主義には、2つの長所がある。1つは、他社との競争に強いことだ。筆者にとって印象的な事例は、1990年代の主にロンドンを舞台とした、米国系の証券会社と、英国の伝統あるマーチャントバンク系の証券会社、ユニバーサルバンク型の大陸欧州系の競争だ。当時、米国系の会社はボーナスも大きいがクビになるリスクが高かった。一方、欧州・英国系の会社は米国系ほど巨額のボーナスは支払わないが人材が(従って雇用が)安定している、といった違いがあった。彼らがいわゆるビッグバン後のロンドンで覇を競ったわけだが、米国系の証券会社は、高額のインセンティブボーナスを提示して次々とライバル達の有能な担当者を引き抜き、担当者には顧客も付いていくような形になり、結果は米国系の圧勝だった。欧州・英国系の会社も、残った会社は、米国系的な人事・報酬制度を採用せざるを得なくなった。

 もちろん、ボーナスに天井がないのだから、陽気な成果主義の下では、社員はチャンスを残らず生かそうとする。陰気な成果主義でありがちな、チャンスを翌期に繰り越して、翌期の目標達成を容易にするというような無用の減速も起こりにくい。陽気な成果主義は競争の激しい局地戦に強い仕組みだ。

 また陽気な成果主義では、人的な資源の配分も含めて個々のマネージャーがビジネスのやり方に裁量と権限を持つことになるので、個々のビジネス分野に合ったやり方を柔軟に実行しやすい。社内のリソースが利益をシグナルに配分され、個々の分野で活用される分散処理型のシステムなので、市場の変化をはじめとする環境の変化に強い点も大きな長所だ。

 しかし、陽気な成果主義にも大きな弱点があった。現在、世界経済に猛威をふるっているサブプライムローン問題も、実は陽気な成果主義の産物なのだ。

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