ついに純増2位に浮上、イー・モバイルの実力とは?神尾寿の時事日想・特別編(1/2 ページ)

» 2008年11月17日 18時35分 公開
[神尾寿,Business Media 誠]

 11月10日、電気通信事業者協会(TCA)が2008年10月の携帯電話契約数を発表した(参照記事)。詳しくはニュース記事に譲るが、純増数(※)1位はソフトバンクモバイル。ひと頃より勢いは落ちたものの、それでも純増首位記録を連続18カ月に伸ばしている。一方で、NTTドコモとKDDI (au)の大手2社は、コンシューマを中心とした純新規市場の飽和と、冬商戦前の買い控え期であったこともあり、新規契約の伸びが低迷。ドコモが4位、KDDIが3位という結果となっている。とはいえ、ドコモやKDDIの大手2社は、すでに多くの契約者と稼働シェアを確保しているため、重要なのは毎月の純増数/純増シェアよりも、解約率の低減の方だ。その点で見ると、ドコモの解約率は「過去最低の水準」(NTTドコモ)であり、キャリアとしての競争力はむしろ高くなっていると言える。

 各キャリアの市場競争において、ここにきて著しい成長が見られるのが、新興キャリアである「イー・モバイル」である。同社は2007年3月に携帯電話市場に参入(参照記事)。データ通信分野を中心に成長し、10月の純増数ではソフトバンクモバイルに食らいつく純増シェア2位となった。同社がいまだサービスエリア拡大中であることを考えると、これは十分に快挙と言えるだろう。

今後の成長が期待できる「2台目市場」で競争力

 なぜ、イー・モバイルはこれほど早期に“成長軌道”に乗ることができたのか。

 まず、表面的な理由として挙げられるのが、同社の市場競争力が「高速・低価格なPC向け定額データ通信サービス」と、「魅力的なスマートフォン向け料金プラン」に、しっかりと“選択と集中”されていることだ。この2つの分野でのみ見比べれば、その価格競争力とサービスの使い勝手のよさは随一である。携帯キャリア3社はもとより、データ通信やスマートフォン分野の草分けであるウィルコムと比べても、高い訴求力がある。

 PC向けデータ通信市場とスマートフォン市場は、携帯電話・PHS市場全体で見れば全体の1割にも満たない。しかし、まだビジネス規模の小さいイー・モバイルからすれば、既存マーケットでシェアを獲得していくだけでも当面の成長をする上で十分な「母数」になる。さらに両分野とも、超小型PCやスマートフォンの進化、モバイル市場の多様化とユーザーの使い分けニーズの拡大などもあり、「2台目市場」として今後の成長が見込める領域でもある。また、逆説的だが、2台目市場が成長の牽引役であることは、すでに飽和・息切れしている“既存のコンシューマ向け携帯電話市場”の成長鈍化の影響も受けにくい。「今あるケータイ」とは別のベクトルで、成長しているからだ。

 このように当初から「データ通信サービス」と「スマートフォン」に選択と集中し、新興市場を成長の足がかりにしていることは、イー・モバイルの優位性になっている。

サービスエリア内ならば、インフラの質は高い

 イー・モバイルが“急成長”している理由は、それだけではない。

 筆者はあと2つ、同社の台頭には大きな要因があると見ている。それが「インフラ」と「マーケティング」における高い実力だ。

 まず前者のインフラ力であるが、サービスエリアの広さだけ見れば、イー・モバイルのそれは他キャリアに追いついていない。新規参入から2年も経っていないことを考えれば、それは当然だ。筆者が注目しているのは、すでにサービスエリア化された場所での「インフラの質」の部分である。

 筆者はイー・モバイルのデータ通信サービスを、サービス開始時から利用しているが、同社のインフラはドコモ並みにクオリティが高いと感じている。サービスエリア内では屋外はもちろん、屋内でもかなりの確率でつながる。屋内浸透で比較的有利な1.7GHz帯を使っていることもあるが、イー・モバイルの接続率は悪くない。例えば、先週筆者は日本カー・オブ・ザ・イヤーの選考で大磯プリンスホテルに宿泊した。筆者が泊まった部屋ではソフトバンクモバイルは圏外だったが、イー・モバイルはドコモやauと同じく、しっかりとつながった。

 確かに絶対的な全国エリアの広さや、駅や商業ビル内への屋内基地局整備では、イー・モバイルは他社よりも遅れを取っている。だが、サービスエリア化された地域での、屋外・屋内での“つながりやすさ”は十分に実用的であり、クオリティは高いと感じている。

 さらにデータ通信サービスの「実効速度(スループット)」においても、イー・モバイルは健闘している。当初はユーザー数が少なかったので、実効速度が速いのは当たり前だった。しかし、ユーザー数が急増した今も、都市部での利用でも著しくスピードが落ちるといった印象はない。イー・モバイルは後発の強みを生かして小型基地局を中心にエリア展開をし、当初から「ブロードバンド時代の需要や利用を見越したエリア設計にしている」(イー・モバイル幹部)と聞く。その取り組みの成果はしっかり出ているようだ。

 ユーザー数が急増し、PCを中心に大容量のデータ通信が行われていても、十分な実効速度が出ている。いまだサービスエリア拡大中のため、どうしても見えにくくなりがちだが、イー・モバイルのインフラの実力値はかなり高い。

       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.