金融マンの営業トークには気をつけよう! ラップ口座の“カラクリ” 山崎元の時事日想(1/2 ページ)

» 2008年10月02日 07時00分 公開
[山崎元,Business Media 誠]

著者プロフィール:山崎元

経済評論家、楽天証券経済研究所客員研究員、1958年生まれ。東京大学経済学部卒業後、三菱商事入社。以後、12回の転職(野村投信、住友生命、住友信託、シュローダー投信、バーラ、メリルリンチ証券、パリバ証券、山一證券、DKA、UFJ総研)を経験。2005年から楽天証券経済研究所客員研究員。ファンドマネジャー、コンサルタントなどの経験を踏まえた資産運用分野が専門。雑誌やWebサイトで多数連載を執筆し、テレビのコメンテーターとしても活躍。主な著書に『会社は2年で辞めていい』(幻冬舎)、『「投資バカ」につける薬』(講談社)、『エコノミック恋愛術』など多数。ブログ:「王様の耳はロバの耳!


 ラップ口座をご存じだろうか。売買手数料と投資判断の報酬をまとめて支払い、お金の運用を任せる証券会社のサービスだ。「どんな商品(通常は投資信託が多い)にいついくら投資するか」という投資判断は投資顧問業務だが、証券会社が投資顧問業を兼業したり、別の投資顧問会社を使ったりして、顧客の投資判断を行うというもの。

 株式に何%投資するかといった資産配分や商品選択は、多くの個人投資家が“面倒”と感じている。しかしラップ口座であれば、投資判断をプロに任せられることと、売買が多くなるとかさみがちな手数料を一括払いで済ませられることが特徴だ。ラップ(wrap)とは「包む」という意味で、包括的に手数料を払うことから、ラップ口座という名前が付いている。

 日本ではまだ大いに普及しているというほどポピュラーなサービスではないが、ある程度以上の金融資産を持った顧客をターゲットにして、金融機関は営業に力を入れつつある。しかし、筆者はラップ口座の利用に反対だ。

ラップ口座の問題点とは

 ラップ口座ではサービスを開始する際に、顧客の家計の状況と運用のニーズを聞いて、どの程度のリスクで投資するかを選択することが多い。しかし率直に言って、プロのファンドマネジャーであっても他人は他人だ。顧客自身の家計のことは、顧客が一番よく分かる。もちろん、自分では気付きにくい家計の問題や運用の考え方はあるだろうし、第三者のアドバイスが参考になることはあるだろう。だが運用については、アドバイスを聞き理解した上で、自分で決めることが重要であって、判断を放棄することはあまりに危険だ。自分のお金の問題について、自分で考えることをしなくなる、という意味において、ラップ口座を利用するという行為そのものが健全でないと筆者は考える。

 加えて、ラップ口座では、運用商品の選択に問題がある。ラップ口座は売買手数料が固定されているので、かつて日本の証券会社で問題になったような過剰売買による手数料稼ぎの心配は小さいが、運用対象の内部でかかる手数料を大きく取られる可能性がある。例えば投資信託の場合、ファンド資産の保管・管理と運用に対する報酬として信託報酬と呼ばれる手数料をファンドから自動的に徴収されるが、ラップ口座の場合、信託報酬の高い商品を選択される危険性があるのだ。

 なぜなら、信託報酬の半分程度は、代行手数料という名目で運用会社から販売会社に支払われているので追加的な収入になるし、運用会社自体が資本系列のある会社であることが多い、そのためラップ口座の運営者は、信託報酬が高いファンドを選ぶことが自社およびグループ会社にとってのメリットとなるからだ。

 また投資対象によっては、売買による手数料稼ぎが可能だ。債券は主に店頭取引だし、外貨建ての資産に投資する場合には、為替の手数料で稼ぐこともできる。運用を「お任せ」でやりたいと思うような顧客の場合、こうした価格に含まれている手数料には気付かないだろう。

 加えて、ラップ口座は、制度としては解約が随時可能であっても、金融機関側の人間が介在するため、心理的に解約しにくいという問題もある。運用を受託する側では、解約されない限り潤沢な手数料収入があるので、顧客の解約を思いとどまらせようと努力する傾向がある。相場が相手なので、解約しないことが結果的に奏功することもあるが、特定の利害を持った他人が介在することは良くない。

投資信託の仕組み
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