第5話 まとまらない会議を意義あるものにする方法Webビジネス小説「中村誠32歳・これがメーカー社員の生きる道」(1/3 ページ)

» 2008年09月24日 18時00分 公開
[眞木和俊,Business Media 誠]

この物語は……?

 中村誠、32歳。静岡県出身、東京の中堅私立大学を卒業し、彼女いない歴3年。加工食品メーカー「アイティフーズ」に入社してちょうど10年目を迎える中堅社員です。誠が社会人として働いてきた10年間は、日本経済が停滞し“失われた10年”といわれた時代。年功序列制度が成果主義に代わり、後輩が入らず今までずっと下っ端として働いてきた誠も、そろそろ「中堅社員」と呼ばれる年代になってきました。

 これまでマネジャーとすら呼ばれたことがない誠は、ある日突然、社内プロジェクトのリーダーに登用されます。ビジネスリーダーの心構えとは? 部門横断型のプロジェクトを成功させるコツとは? 本連載では小説形式で、誠が奮闘しながら成長していく姿を描いていきます。

前回までのあらすじ

 加工食品メーカー・アイティフーズでは、大豆イソフラボンを利用した新型飲料を開発することになった。開発プロジェクトのリーダーに抜てきされた中村誠は第1回目のチーム討議を開くが、なかなか会議はうまく行かない。誠は、師と仰ぐ星野仙八とともに、チーム討議の振り返りをすることにした。


 第1回チーム討議の翌日、中村誠は同じ会議室で星野仙八からコーチングを受けていた。コーチングとは、目標を達成するために必要となる能力や行動を外部からのコミュニケーションによって引き出していく方法のことだ。これまで他人からのコーチングなど受けたことがなかった誠だが「何となく学生時代に経験した家庭教師の印象に近い」と感じる。

星野 チームを率いるリーダーの心がけとして、「常に半歩先を見通す」ことが挙げられます。

 そんな天気予報みたいなことができるんですか?

星野 天気予報とは、うまい表現かもしれないね。ここで言いたいのは、「今までの情報を整理した上で、論点を明確にして、できるだけ仮説を立てておく」ということなんです。

 論点? 仮説? 師匠、もう少し簡単な言葉で説明してもらえますか?

星野 そうだなあ、じゃあ昨日の皆さんの発表内容を振り返ってみましょうか。中村さん、あなたの理解で構わないので、昨日の各発表内容について「良かった点」と「改善が必要な点」を話してみてください。私がここに要点を書き出しますから、お好きなようにどうぞ。

 そう言いながら、星野はホワイトボードに線を引いて表を作り、メンバーの名前を書きこんだ。

 ええと、こういうのを「安全なシェルター」(参照記事)っていうんでしたっけ。

星野 もちろんそのつもりですよ。さっそく覚えてくれて、ありがとう。

 いきなり星野にほめられて、なんとなく面はゆい気分の誠だったが、実は仕事上の注意力と記憶力には密かに自信があった。

 まず坂口の説明ですが、良かった点は新商品のイメージが具体的で、すでに試作品も何パターンも用意してあったことです。さすがに飲料開発部だけあって検討内容は詳細だったと思います。ただ発表内容が専門的過ぎたのと、だらだらと時間をかけ過ぎてまとまりがなかったのが気になりました。それに今後、このプロジェクトで検証したい点があいまいで、よく分かりませんでした。

 誠の説明を聞きながら、星野はホワイトボードの表に要点を書き込んでいく。

星野 では、もし坂口さんの発表内容を○×で評価するとしたら、どちらを付けますか?

 そうですねえ、内容的には○だと思います。

 星野は、坂口の欄の右側に○印を付けた。

星野 それでは、続けて山口さんはどうでしたか?

 このようにして、全員の意見に対する誠の感想を整理した表が完成した(表)。前回時間切れで発表できなかった2人については、小栗の評価は配った資料だけで行い、仲居の評価は水戸工場時代の誠の経験によるものだ。

メンバー 良かった点 改善が必要な点 誠の評価
坂口(飲料開発部) 新商品アイディアが具体的 検証したいポイントが網羅的ではなくあいまいだった
山口(商品販売部) 競合や販路の状況が何となく分かった 個人の愚痴に終始して、有効なデータとはいえない ×(再発表)
浜崎(市場調査室) 市場、自社ブランド、顧客のイメージが具体的で分かりやすい 具体的な顧客ターゲットまでは絞り込めていない
小栗【資料のみ】(購買部) 原価構成の分析が明確 最小コスト視点だけで、機械的に原価を決め付けているように見える
仲居【未発表】(製造部) (誠の知る限り)生産キャパシティと納期の読みは確実 (誠の知る限り)品質を重視しすぎてコスト軽視の姿勢が伺える
表:メンバーの発表内容を振り返る

あなたが誠なら、どうする?

 会議はやりっぱなしではなく、振り返ることにより、次回に生かすことができます。

 星野と誠はメンバーの発表内容を振り返り、それぞれに○×を付けました。あなたが誠なら、とくに×が付いた内容に対してどう振る舞いますか?


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