ユーザーと市場の“知性”を試されるクルマ――トヨタ「iQ」に試乗した神尾寿の時事日想・特別編(1/2 ページ)

» 2008年08月29日 12時30分 公開
[神尾寿,Business Media 誠]

 ガソリン価格高騰を受けて、自動車市場は世界的な“ダウンサイジング”の中にある。古くから軽自動車市場があり、ここ数年はコンパクトカーやコンパクトミニバンが販売の主力となった日本、そしてコンパクトカーの本場である欧州はもとより、「大きいことが正義」と言われていた北米市場でさえもコンパクトカー人気が高くなっている。「速く、大きく、そして力強く」という価値観は20世紀のものになりつつある。合理的かつコンパクトなパッケージと、クリーンで低燃費なパワートレイン。そして事故のリスクや被害を最小限に抑えるスマートさが、21世紀のクルマに求められる新たな基準である。

 そのような中で、トヨタ自動車が提案するのが「iQ」である。全長3メートル以下(2985ミリ)のボディで4シーターを実現。それでいて街乗り専用のシティコミュータではなく、都市間移動もこなす基本性能と、華美ではないが高品質な内外デザインを用意したという。プリウスが環境性能の象徴になったように、「効率性の時代」と「合理的なパッケージ」の象徴を目指す。それがiQである。

 iQはプリウス同様に、21世紀のクルマを体現する存在になり得るか? 今日の時事日想は特別編として、iQプロトタイプの試乗レポートをお届けする。

トヨタ自動車「iQプロトタイプ」

ゼロから創られた異端のクルマ

 iQを目の前にして、まず驚かされるのは、全長2985ミリ、全幅1680ミリ、全高1500ミリというユニークなボディサイズだ。全長は軽自動車以下だが、横幅や高さは普通車サイズ。この中に4シーターと、質感の高い走りを実現するメカニズムを詰め込んでいる。

 「(iQ で)トヨタが目指したのは、超高効率パッケージによる革新です。人々の環境意識が高くなり、またガソリン価格も多少の変動はあれば、昔のような価格水準には戻らない。世界中でライフスタイルは変わらざるを得ないでしょう。そのような時代にあわせて、クルマのかたち(パッケージ)も変化しなければならないと考えています」(トヨタ自動車専務取締役の市橋保彦氏)

全長は軽自動車以下だが、横幅や高さは普通車並みという独特のサイズ

 むろん、「小さくするだけ」では意味はない。トヨタはiQを作るにあたり、高速走行も無理なく行える基本性能と、長距離移動でも疲れない車内スペースと乗り心地の確保、そして小さくても妥協のない安全性能の実現を目標として掲げた。iQはこれから先に発売されるトヨタ車の礎となる、超高効率パッケージ技術の開発を担ったのだ。開発を指揮したトヨタ自動車第2乗用車センター製品企画チーフエンジニアの中嶋裕樹氏は「技術的にどこまでできるか(というアプローチ)では、iQは作れなかった。今までの常識を捨てて、ゼロから開発する必要がありました」と話す。

 超高効率パッケージをどのように作り上げるか。iQの開発チームは、様々な発想の転換や今までの常識を破る技術的アプローチを行った。

       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.