「目に涼しく、住んで省エネ」――ドイツ流建物緑化術松田雅央の時事日想(1/3 ページ)

» 2008年08月19日 10時17分 公開
[松田雅央,Business Media 誠]

松田雅央(まつだまさひろ):ドイツ・カールスルーエ市在住ジャーナリスト。東京都立大学工学研究科大学院修了後、1995年渡独。ドイツ及びヨーロッパの環境活動やまちづくりをテーマに、執筆、講演、研究調査、視察コーディネートを行う。記事連載「EUレポート(日本経済研究所/月報)」、「環境・エネルギー先端レポート(ドイチェ・アセット・マネジメント株式会社/月次ニュースレター)」、著書に「環境先進国ドイツの今」「ドイツ・人が主役のまちづくり」など。ドイツ・ジャーナリスト協会(DJV)会員。公式サイト:「ドイツ環境情報のページ(http://www.umwelt.jp/)」


 日本の酷暑には遠く及ばないとはいえ、ドイツの夏もなかなかに暑い。気温が30度を越すのは2〜4週間とこれも日本に比べればずいぶん少ないが、夏場は南西向きの部屋の雨戸を閉めておかないととても過ごせない。特に屋根裏部屋の暑さは格別だ。かといってクーラーは大げさ過ぎるようで、(店舗や公共施設は別として)住宅にクーラーを据え付ける家庭はまずない。

 ひところ、日本では都市の温暖化防止に効果があるとして屋上緑化がもてはやされたが、残念ながら一過性のブームに終わった感がある。確かに温暖化防止の効果は期待できるのだがそれだけで都市気候を改善するのは過度な期待で、緑化の意義はもっと広く考える必要がある。

 建物の緑化はドイツの方が普及しており、屋上緑化のみならず壁面の緑化もごく普通に見られる。昔から緑化を楽しむ伝統がある上、1970年代に入ると環境保全に有効としてその大切さが再認識されるようになった。

伝統的な木組みの家と壁をはうツタ

屋根の鉄板で目玉焼き

 黒い森地方の温泉保養地バート・ヘレンアルプに事務所を構えるペーター・ブート氏は、この地方でいち早く特殊緑化事業に取り組み始めたパイオニアだ。一口に緑化といっても様々な種類があり、屋上に薄い土壌を敷く屋上緑化、スペースに制限のある場所での壁面緑化、土壌を少量しか使わない街路樹、斜面の緑化などが含まれる。ここではそれらを特殊緑化と総称することにしたい。

 ブート氏はこれらの特殊緑化を手がける造園技術者であり、屋上緑化用の土壌基材(下写真)を独自開発するなど新しい技術にも積極的だ。石炭灰をスラグ化して作られるこの土壌基材は、多孔質のため軽量で保水性にも優れ、これに土と肥料を混合して使用する。

ブート氏の開発した軽量土壌基材

 ブート氏が手がけた地元の保養施設(下写真)の前庭は地下が駐車場になっており、これも特殊緑化の一種だ。また、建物も1階入り口の上が緑化され施設利用者に開放されている。

 標高800mのこの地でも緑化されていない屋根は夏の直射日光を受ければ、(鉄板の場合)目玉焼きが焼けるほど熱くなるそうだ。そういった屋根は室内温度を下げるため、わざわざ散水装置を備えているが、屋上緑地ならば断熱効果があるためそれも不要。残念ながら、この建物が建設された20年前はまだ屋上緑化が特殊で建築家の理解が得られず、屋根全体を緑化することはできなかった。新しい技術の開発が終っても、人々(この場合は建築家と施工主)の意識改革にはさらに時間がかかる。

ブート氏が緑化を手がけた保養施設
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