第1話 入社10年、突然のリーダー指名Webビジネス小説「中村誠32歳・これがメーカー社員の生きる道」(1/3 ページ)

» 2008年08月20日 08時00分 公開
[眞木和俊,Business Media 誠]

この物語は……?

 中村誠、32歳。静岡県出身、彼女いない歴3年。都内の中堅私立大学を卒業し、国内系加工食品グループ「アイティフーズ」に入社してちょうど10年目を迎える中堅社員です。誠が社会人として働いてきた10年間は、日本経済が停滞し“失われた10年”といわれた時代。年功序列制度が成果主義に代わり、後輩が入らず今までずっと下っ端として働いてきた誠も、そろそろ「中堅社員」と呼ばれる年代になってきました。

 これまでマネジャーとすら呼ばれたことがない誠は、ある日突然、社内プロジェクトのリーダーに登用されます。ビジネスリーダーの心構えとは? 部門横断型のプロジェクトを成功させるコツとは? 本連載では小説形式で、誠が奮闘しながら成長していく姿を描いていきます。

筆者よりひと言

 「誠」世代が“自立する=自ら考え正しく行動できる”ことが、今後の日本経済を支えるといっても過言ではありません。社会に出たビジネスパーソンとして自立するためのきっかけは誰にでも必ずありますから、そのチャンスに果敢にチャレンジしてほしいと思います。

 しかしその際、気合と根性だけでは徒手空拳も同然。本連載でご紹介するようなビジネスリーダーとしての心構えと基本動作を身に付けておいたほうが無難でしょう。これらは難しく考えるのではなく、実際に試してみることが大切です。

 本連載の主人公・誠は、おっちょこちょいではありますが、好奇心と向上心を持ち合わせたがんばり屋です。誠のように『天は自ら助くるものを助く』の精神とプラス思考で臨んだリーダーこそが、最後にはきっと生き残るのです。


 「このプロジェクトのリーダーを務めることになりました、商品企画室の中村誠です。皆さん、よろしくお願いしまーす!」

 プロジェクトメンバーの最初の顔合わせとなったミーティング。元気よくあいさつしているのは、この物語の主人公である、中村誠・32歳だ。業界第2位の「アイティ食品グループ」の子会社で加工食品メーカーの「アイティフーズ」に新卒で入社し、一通りの仕事はこなせるつもりの10年目。誠の脳裏には、先月からの一連の出来事が走馬灯のように駆け巡っていた。

僕がリーダーですか!?

 1カ月前のある日、誠は突然、製造部長の東山貞治に呼び出された。東山部長は、誠が水戸工場に勤めていたときの工場長で、大変お世話になった上司だ。温厚で、後輩の面倒見がいい東山部長のことを、誠はひそかに尊敬している。

 えっ? 僕がリーダーですかぁ?

東山 そう。水戸時代から知っている君を見込んで私からもお願いしておいたんだ。経営陣も今回の新商品開発では積極的に若手を登用していきたいという意向なんだよ。

 でも、僕にそんな大役が務まるんでしょうか?

東山 そいつぁ、やってみないと分からないけどね。まあ、がんばり屋の君のことだ。大いに期待しているよ。

 分かりました……。ご期待に沿えるようしっかりやります!

東山 正式なプロジェクト開始は来月になる。それまでに責任者の私の方で一緒に頑張ってもらうチームメンバーも選抜する。中村君は、「CFT」って聞いたことがあるかい?

 CFTですか? 前にニュースか何かで聞いたような気がしますが……。

東山 クロスファンクショナルチームの略で、CFTというんだよ。最近、大手自動車会社を建て直した有名な経営者の得意技だそうだよ。目的を達成するために関係する部門を横断してメンバーを集めて作ったチームのことだ。ウチの社内では珍しいことなんだが、どうやらグループ本社ではすでにこうした取り組みがいくつも進んでいるらしい。最近グループ全体も成長が鈍っているから、弾みをつけたいんだろう。

 ということは、今回の話もそうした流れの一環というわけですか?

東山 おそらくそうだろうな。まだ私も詳しく聞いていないが、今度幹部に対して説明会があるそうだ。とにかく君は、来月までに今抱えている仕事を他のメンバーに引き継いでおいてほしい。当然、商品企画室長も了解していることだから、さほど心配しなくてもいいよ。それより、ビジネス書を読むなり、前もって勉強でもして、立派にリーダーの役目を果たしてくれよ。

 はい……。

 リーダー指名は嬉しかったが、あまりにも突然のことに、誠の胸中は情けないくらい不安でいっぱいになった。

 いきなり僕がリーダーだって。どうしよう……だいたい、CFTって何だか分かんないし。やっぱり東山部長の言うとおり、本でも読まなくちゃ。

 野心ギラギラというタイプではないが、内に秘めた好奇心と向上心を持つ誠。さっそく役に立ちそうなビジネス書を探すため、帰りがけに本屋に立ち寄ってみた。

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