投資するなら風力発電!? ドイツ風力発電事情松田雅央の時事日想(1/2 ページ)

» 2008年07月15日 09時51分 公開
[松田雅央,Business Media 誠]

松田雅央(まつだまさひろ):ドイツ・カールスルーエ市在住ジャーナリスト。東京都立大学工学研究科大学院修了後、1995年渡独。ドイツ及びヨーロッパの環境活動やまちづくりをテーマに、執筆、講演、研究調査、視察コーディネートを行う。記事連載「EUレポート(日本経済研究所/月報)」、「環境・エネルギー先端レポート(ドイチェ・アセット・マネジメント株式会社/月次ニュースレター)」、著書に「環境先進国ドイツの今」「ドイツ・人が主役のまちづくり」など。ドイツ・ジャーナリスト協会(DJV)会員。公式サイト:「ドイツ環境情報のページ(http://www.umwelt.jp/)」


 今や、ドイツのどこへ行っても発電用の大型風車を見かけない土地はない。風車はこの10年間で、あたかも雨後の竹の子のように建設され、消費電力に占める風力の割合は6.4%(2007年)に達している。この1年だけでも発電量は30%増加した。

 風力に加え、バイオマス発電、水力、太陽光といった再生可能エネルギーを合計すると消費電力に占める割合は14%を超える。再生可能エネルギーといえば電力供給の隙間を埋める「お手伝い的な電源」と考えられていた時代もあったが、ドイツでは欠くことのできない存在になっている。

田園風景の中に立つ風車

うまく行けば15年

 ドイツでなぜこれほど風車が建設されるのか。その理由は投資先として魅力的だからに他ならない。

 昔、風車建設に参加したのは「儲けにならなくても、環境保全のために何かをしたい」という人が多かったが、それだけでは普及に限界がある。時代は移り、今では低迷する株式に代わる有利な投資先と捉える人が増え、ビジネスとして十分成り立つようになった。自己資金、銀行からの借り入れ、個人出資を募るなど資金調達の方法はいろいろあるが、大きなトラブルがなければおよそ15年で建設費用を回収できる。

 15年という期間を見通せるのは、再生可能エネルギー法(EEG)により売電価格が保証されているから。同法は再生可能エネルギー開発促進のため2000年4月に施行され、その目論見通り再生可能エネルギー開発に火が付いた。

ユーザー負担型の補助

 電力会社には再生可能エネルギー電力を買い取る義務がある。そして、その価格は電力会社の都合で決まるものではなく、15年程度で建設費用を回収できるよう法律で手厚く設定されたものだ。

 増加したコストは全国の電力価格に広く薄く上乗せされ、最終的に消費者が支払うことになる。1人当たり年間10ユーロ程度の負担増は、一般消費者にとっておおむね受け入れ可能な額と言えよう。国が費用を負担する必要のない「ユーザー負担型の補助」であり、再生可能エネルギー促進のためドイツだけでなく多くのヨーロッパ諸国で採用されている手法である。

ゴミの山に風車を建てる

 さて、筆者の住むカールスルーエ市の工業地帯にも大型風車が立っている。ここは元々ゴミの埋め立て処分場で、高さ60メートルまでゴミを積み上げてできた文字通りの“ゴミの山”。緑化された山の上では3本の発電用風車が元気よく回っている。

 カールスルーエはライン川の作った大きな平野にあり、土地が平坦で比較的風が弱いため風力発電には向かない。地元で農家を営み市議会議員も務めたトーマス・ミュラショーン氏は、それでも環境保全のため風車を建設したいと考え、ある日このゴミの山に思い至った。風は標高が高いほど強く吹く。

 斜面に設置されているのは太陽電池。ここには写っていないがゴミの山から出るメタンガスは収集されコジェネレーション(熱伝併給)に利用されている。ゴミの山が再生可能エネルギーの山に生まれ変わったわけだ。なお、この風車で生産した電力の売電価格は1キロワット時あたり約15円。

高さ60メートルまでゴミを積み上げてできたゴミの山の風車。緑化された山の上では3本の発電用風車が回っている(左)、再生可能エネルギー祭りで風車に登ってみた(右)

 ゴミの山の上にはセミナールームが建っており、環境啓蒙活動に利用されている。写真はミュラショーン氏と市が共同で主催したフェスティバルの様子。普段は上れない風車に登ることもできた。

 ただし、ゴミの山は地盤が軟弱なため風車のような建造物は適していない。さらに、ゴミの山から出るメタンガスに引火しないよう、変電設備を含めて全体を防爆仕様にしなければならない。ここでは技術的な話に触れないが、すべての問題を解決し、ゴミの山を管理する州と自治体から特別の許可を受けてようやく1999年に1号機が稼動を始めた。

ゴミの山の風車の基礎工事。基礎は鉄筋コンクリートであるため、塔が根こそぎ倒れることはない(出典:Seewind Windenergie GmbH)

 巨大な鉄筋コンクリートの基礎があるため、理論上、塔が根こそぎ倒れることはない。

 例えば2002年に建設された出力1500キロワット、羽の直径80メートルの3号機の建設費用はおよそ3億5000万円。費用の半分は個人出資(1000口)を募って調達し、残り半分は銀行からの借り入れで賄われた。個人の出資金は年4%の利子を付けて15年で返済され、その後は風車が動き続ける限り年8%の利子が支払われ続ける。この条件であれば、出資したいと考える人は多いはずだ。

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