利用者の中心は30代――日本でも広がるカーシェアリング神尾寿の時事日想・特別編(1/2 ページ)

» 2008年04月10日 10時56分 公開
[神尾寿,Business Media 誠]

 生活スタイルの変化や環境意識の高まり、消費者の価値観が多様化したことで、「クルマを購入すること」へのニーズは年々低下してきている。特に公共交通が発達した都市部では、クルマは生活の上で必要不可欠なものではない。クルマそのものに趣味的な価値を見いだせなければ、“利用頻度が低い移動手段”の1つ。高額の購入・維持費を負担してまで所有しようという人が減っていくのは、ごく自然な流れといえる。

 しかし、その一方で、クルマは時として“あれば便利な道具”だ。使うときだけ利用する。公共交通的な「利用」ができるなら、生活におけるクルマの価値や役割の可能性が広がる。

 こうした“クルマ利用型”の新たなサービスとして世界的に注目され始めているのが、会員制で短期間の貸出を行う「カーシェアリング」だ。すでに欧州や北米の都市部では、賢い自動車交通の在り方として認知度・利用率ともに高くなってきている。

 このカーシェアリング事業を日本で積極的に展開するのが、オリックス自動車である。同社は「プチレンタ」というサービス名称でカーシェアリング事業を拡大しており、首都圏や名古屋、京都などでサービスを展開。FeliCaカードやおサイフケータイを認証・予約システムに活用し、最先端のカーシェアリングシステムを提供している。

オリックス自動車「プチレンタ」

 そこで今日の時事日想は特別編として、オリックス自動車レンタカー営業本部カーシェアリング担当 ゼネラルマネージャーの高山光正氏にインタビュー。カーシェアリングの可能性と、プチレンタサービスの現状について話を聞いた。

カーシェアリングとレンタカーの違い

 クルマを使いたいときだけ「借りる」。この部分だけ見れば、従来からあるレンタカーサービスと、カーシェアリングは同じように見える。しかし、実際のサービス形態はかなり異なる。

 まず、カーシェアリングとレンタカーの大きな違いとなるのが、利用形態だ。レンタカーは不特定多数の利用者が数時間から1日単位で借りるが、カーシェアリングは会員制であり、利用時間も15分から24時間程度と短い。レンタカーよりも“日常的な利用”にフォーカスしたサービスといえる。

 貸出の仕組みや料金体系も異なる。カーシェアリングは会員制なので、利用時に書類の記入や支払い手続きは不要。そのためクルマの貸出スペースは無人だ。料金は毎月の後払い方式であり、クルマ利用時のランニングコストである「燃料代・各種保険料」はサービス利用料に含まれている。レンタカーのように返却時に給油して戻すといった面倒もない。

オリックス自動車レンタカー営業本部でカーシェアリングを担当する高山光正氏

 「レンタカーとカーシェアリングはサービス形態が異なりますから、両者は連携関係にあります。ユーザーは(日常的な)短時間・短距離利用ではカーシェアリング、旅行など長時間・長距離の利用時はレンタカーを選べばよいのです」(高山氏)

 例えば、オリックスのカーシェアリングサービスの料金体系の場合、基本料金が月額2980円のAプランと月額1050円のBプランの2つの選択肢が用意されている(個人契約の場合)。貸出料金はAプランが160円/15分、Bプランが260円/15分。クルマの利用時間が短かったり、利用頻度が少ないなら、クルマを所有したり、レンタカーを借りるよりもコストは安く済むという。

 「我々の試算では、クルマの利用距離が年間9000Km以下ならば(マイカー利用よりも)カーシェアリングの方がお得という結果が出ています。この試算は駐車場代が月額1万5000円で計算していますから、都内のように駐車場代が高いエリアならば、さらに(カーシェアリングの方が)お得になるでしょう」(高山氏)

大規模な都市型マンションに併設するケースが増えている

 2008年2月時点で、プチレンタのサービスは首都圏・名古屋・京都の3都市で提供されており、会員数は約1600人。カーシェアリング車両が置かれた拠点(ステーション)数は190カ所、車両数は合計283台という状況だ(参照記事)

 「会員獲得はステーションエリアの拡大と相関するので、拠点の確保が重要な取り組みになっています。東京都では公共駐車場の提供などをしていただいていますが、さらに行政や公共交通事業者との協力体制を取っていきたい。

 また最近の傾向としては、大型・高付加価値の都市型マンションにカーシェアリングのステーションが併設されるケースが増えてきました。特に都市部ですと、クルマ離れの意識拡大から入居者全員がマイカーを所有し、駐車場を必要とする状況ではなくなってきているので、カーシェアリングを共用サービスとして見る動きが広がってきています。デベロッパーの注目度が上がっていると感じます」(高山氏)

 ユーザー属性で見ると、30代が利用者の中心になっており、「可処分所得が多く、合理的な考えを持つ都市生活者が多い」(高山氏)という。カーシェアリングはクルマ関連コストの節約に役立つが、だからといって低所得者が使うという傾向は見られないようだ。

スイスでは7万人以上のユーザーが利用

スイスのMobilityは、欧州では最大規模を誇るカーシェアリングの協同組合だ

 カーシェアリングは日本でも注目され始めているが、普及率や利用率でみると本場は欧州だ。特にカーシェアリング発祥の地であるスイスでは歴史が古く、最大手のモビリティは1987年に創業した。現在ではスイスの人口の約1%となる7万人強の会員が日常的にカーシェアリングを利用している。

 「スイスでカーシェアリングが大きく伸びたのが、1990年代の半ばです。ここで、なぜ利用者が拡大したかと言いますと、大きく3つの理由があります。

 1つはカーシェアリングの貸出システムの自動化です。初期の運営(システム)では予約や利用記録に紙の帳簿を使っていたのですが、これだとユーザーの使い勝手が悪いですし、記録ミスや精算ミスが起きます。ここが電子化・自動化されたことで利便性が向上し、会員が大きく伸びました。

 2つめは国や自治体がカーシェアリング事業の(渋滞緩和による経済効果や排出ガス削減による環境貢献効果など)メリットを認知して、積極的に支援するようになったこと。これにより社会的な認知度も向上しました。

 そして3つ目の理由が、カーシェアリングサービスが『公共交通』として認められ、1枚の交通ICカードで路面電車・バス・タクシーとカーシェアリングが利用できるようになったことです。日本でイメージするならば、SuicaやPASMOでカーシェアリングが利用できるようになるようなものですね」(高山氏)

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